ポイントプログラムとは、新しい顧客を獲得したり、既存顧客のLTV(Life Time Value)を大きくしたりするために、購入履歴などにもとづき、割引サービスなどの付加価値を提供する仕組みです。例えば、顧客が購入や他のアクションを通じてポイントを獲得し、それを特典や割引に交換できる仕組みが挙げられます。楽天やVポイントなどの共通ポイントや、企業独自のポイントなど、近年はさまざまな企業がポイントプログラムを提供しています。
今回のコラムでは、効果的なポイントプログラムの設計・運営を行うために必要な提供価値や事例、ポイントプログラムの効果的な運用方法や注意点について解説します。
ポイントプログラムとは?
ポイントプログラムとは、顧客の購買行動やサービス利用に対して「ポイント」を付与し、そのポイントを割引や特典として利用できる仕組みです。小売業、飲食業、ECサイトなど、多くの企業が顧客ロイヤルティを高めるための方法のひとつとして取り組んでいます。
ポイントプログラムは、単なる「ポイント還元の仕組み」ではなく、顧客の満足度やブランドへの愛着を高める重要なロイヤルティ向上施策で、CRMに取り組むうえでは欠かせないもののひとつと言えます。
効果的なポイントプログラム設計で必要な3つの提供価値
では、お客さまの心をつかむような効果的なポイントプログラムを設計し、運営していくためには、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。
ここからは、ロイヤルティプログラムの設計のベースになる「金銭的価値」「利便的価値」「心理的価値」の3つの価値をそのヒントとして解説します。
ポイントプログラムの基本である金銭的価値
ポイントプログラムを3つの提供価値で考える上で、設計上一番重要なのは金銭的価値です。
そして、その一番の要が、インセンティブ(ポイント)の付与率と利用価値率です。金銭的価値は主に、インセンティブ(ポイント)の付与率と利用価値率によって決まるためです。付与率は顧客が支払った金額に対して付与されるポイントの割合で、利用価値率は顧客がポイントを利用する際の交換価値を示します。
例えば、付与率が1%で、利用価値率が100%の場合、100円の購入で1ポイントが付与され、1ポイントは1円として利用できます。そして、これらを掛け合わせた金銭的価値がポイント還元率です。
通常、ポイントプログラムでは全ての顧客に同一の付与率と利用価値率が適用されます。ただし、特定の顧客や商品に対しては、付与率を変動させることで顧客を優遇し、購入を促すことができます。また、特定の日や商品で付与率を上げることで、顧客の購入パターンを形成することも可能です。金銭的価値を適切に管理することで、ポイントプログラムでの顧客のロイヤルティを確固たるものにできます。
一方で、利用価値率に関しては、コントロールせずに一定の割合で固定することをお勧めします。ただし、ポイント交換のラインナップに自社商品や自社開発の景品がある場合は、現金や金券の利用価値率より高い率を付与することで、自社にとって有利な交換先に誘導することも可能ですので、交換先の決定も重要なポイントです。
顧客目線で考える利便的価値
ポイントプログラムにおいて、利便的価値は顧客の利便性と直結しています。
この価値は、「どこでもポイントを貯められる」「どこでもポイントを使える」という二つの要素に集約されます。
例えば、楽天やVポイントなどの共通ポイントプログラムは、この利便的価値を最大限に引き出すため、多くの企業、特に流通業を加盟店とし、顧客が日常生活の様々な場面でポイントを貯めて使えるようにしています。
しかし、自社でポイントプログラムを運用する場合、利便的価値の提供には制約が生じることがあります。そのため、どのように顧客に利便性を提供するかが重要な課題になります。
この課題を解決するためには、様々な利便的価値を提供することが効果的です。
例えば、紙のスタンプカードとスマホアプリの併用や、ある一定のポイントがたまった場合、ポイントの有効期限が来る前に事前に教えてくれるなどの施策は、顧客の利便性向上につながり有効です。
下記の例は、スーパーマーケットいなげや様のポイントプログラムにおいて、有効期限をダイレクトメール経由でお知らせし、ポイント失効前の来店を促したものです。
ポイントが失効する1ヵ月前に、現在のポイント数と間もなく失効する旨をDMでお伝えし、送付後にコールセンターよりお電話でもお知らせをすることで来店を促しました。その結果、DM送付者の25.6%がポイント失効前に再来店し、結果的に休眠顧客の復活にも貢献しました。詳しくは事例ページをご覧ください。
利便的価値の提供において最も重要なのは、顧客目線でのサービス設計です。顧客が必要としない利便性は、コストがかかるだけでなく、サービスの無駄にもつながります。従って、顧客のニーズに応える利便的価値を提供することが、効果的なポイントプログラムに必要です。
顧客ロイヤルティをより高める心理的価値
心理的価値は顧客がブランドやサービスに対して感じる個人的な価値です。これには、
「このお店の店員さんが好きだから」
「このブランドの商品を持っているとリッチな気分になれるから」
「このブランドが好きだから」
「このサービスを使うと安心するから」
など、さまざまな要素が含まれます。
心理的価値を提供することで、ブランドへの愛着や特別感を生み出し、顧客ロイヤルティを高める重要な役割を果たします。心理的価値とは、顧客がそのブランドやサービスとの関係を「自分ゴト」として感じられるようになる価値のことです。
たとえば、ポイントの交換対象を金銭的な割引や特典だけでなく、自社で開発した独自商品や、顧客が本当に必要としている商品に拡大することで、以下のような「私」を中心としたパーセプションが生まれます。
- 「私が好きな商品」
- 「私が必要としている商品」
- 「私がなかなか入手できない商品」
こうした「私」という感覚を強調することで、ブランドやサービスが単なる取引の対象を超え、顧客にとって「特別な存在」となります。この特別感が、顧客とブランドの関係を深め、長期的なロイヤルティを築く基盤となります。実際、当社と株式会社ネオマーケティングとの共同調査結果を見ても、消費者は金銭的価値だけでなく利便的・心理的価値についてもポイントプログラムに参加する理由として挙げていることがわかっています。詳しくは調査結果解説記事をご一読ください。
【事例紹介】食品通販業でのポイントプログラム導入
鎌田醤油株式会社は、1789年に香川県で創業した醤油・調味料の製造販売を行う会社です。
“古いけれども 新しい”の精神で、伝統を受け継ぎつつもより便利で手軽に扱える商品の開発に取り組んでいます。
鎌田醤油では、かねてからお客様からの要望が多かったポイントサービスの導入を決定し、フュージョンでは導入までのプロジェクト推進に関するご支援を行いました。
「ステージ制 ポイントサービス」の導入後、鎌田醤油のお客様からは「ポイント制度が始まったんですね。貯まるのを楽しみにします。」「これでまた購買意欲が上がります。」といったポジティブな声が多数寄せられています。事例の詳細は下記のページをご一読ください。
企業独自のポイントプログラムは、その企業ならではの特典内容やポイントルールを設計できるため、ブランドの個性を顧客に伝えることが可能です。顧客としても、ポイントを貯めているので、その企業や商品・ブランドを選ぶ回数が自然と増えていき、その分顧客との接点が増え、ブランドへのロイヤルティが深まる効果があります。
この事例は、お客様の声を取り入れた企業独自のポイントサービス設計が、顧客満足度とロイヤルティの向上に寄与することを示しています。
ポイントプログラムの効果的な運用方法・注意点
ポイントプログラムを成功させるためには、ただポイントを付与するだけではなく、顧客の特性やニーズに合わせた運用設計が重要です。以下では、効果的な運用方法と注意点について解説します。
3つの価値をバランスよく活用する運用の工夫
ポイントプログラムの設計では、前半でご紹介した「金銭的価値」「利便的価値」「心理的価値」の3つをバランスよく組み合わせることが大切です。これらを顧客のライフサイクルやセグメントに応じて適切に使い分けることで、より効果的な運用が可能となります。
(組み合わせの例)
- 新規顧客向け施策
- 初回購入時の特典ポイント(例:登録時に500ポイント進呈)
- ロイヤル顧客向け施策
- VIP顧客専用特典の付与(例:限定商品の先行予約)
- 休眠顧客向け施策
- ポイント失効通知+期限延長キャンペーン
この例では、新規顧客に対しては、初めての利用時に目に見える金銭的メリットを提示することで顧客の購買意欲を促進し、ロイヤル顧客向けには、特別感を提供しブランドへの愛着をさらに深められるようにしています。休眠顧客については、ポイントの失効リマインドを通じて再来店を促し、顧客関係を再構築しています。
ポイントプログラムでは、顧客のセグメントや目的に合わせた適切な戦略設計が重要になります。
規約や会計基準に関する注意点
ポイントプログラムの運用には、規約を用意したり、法令を遵守したりすることが不可欠です。例えば、以下の点に注意することが大切です。
ポイントプログラム規約の作成
ポイントプログラム規約が不十分だと、顧客とのトラブルや不正利用のリスクが高まります。規約には最低限以下を含めることが通常です。
- ポイントの付与条件や利用条件
- 有効期限
- 不正利用への対応策
詳細な規約作成方法については、こちらの記事をご参照ください。
会計基準への対応
見落としがちですが、会計基準の変更がポイントプログラムの運用に影響を与える場合があります。たとえば、ポイント負債の認識方法や収益認識の変更が該当します。こうした変更に迅速に対応するため、定期的に情報を収集し、必要に応じて専門家の意見を仰ぐことが重要です。
自社に合ったポイントプログラムの導入ご相談はフュージョンへ
ポイントプログラムは、顧客とのつながりを深め、長期的な関係を築くための重要なCRM施策です。しかし、金銭的価値の提供だけに依存した施策では、競合企業や外的環境の変化により顧客との関係性が揺らぎやすくなるのも事実です。
ポイントプログラムをより効果的にするためには、金銭的価値を基盤に、利便的価値や心理的価値の提供も必要です。また、企業独自のポイントプログラムとしては、他社と差別化する工夫が求められます。これにより、顧客にとって「特別な存在」となるブランド体験を提供し、顧客ロイヤルティを高めることができます。
フュージョン株式会社では、30年以上にわたり、CRM領域のマーケティング支援会社として、多くのクライアント企業をご支援してきました。ポイントプログラム設計はもちろん、CRM戦略~施策実行でのお悩みがある方は、お気軽にご相談ください。