ポイントプログラムとは、新しい顧客を獲得したり、既存顧客のLTV(Life Time Value)を大きくしたりするために、購入履歴などにもとづき、割引サービスなどの付加価値を提供する仕組みのことで、ロイヤルティプログラムの一種です。
ポイントプログラムを効果的に運用するためには、事前に準備すべき重要なドキュメントがいくつかあります。その中でも特に重要なのが、ポイントプログラム規約(以下、「ポイント規約」と呼びます)です。多くの方がポイントプログラムに参加する際、登録時にこのポイント規約への同意が求められる経験をお持ちでしょう。
ただ、実際には多くの方が規約の内容を詳細に読まずに同意していることが少なくありません。
公正取引委員会の「共通ポイントサービスに関する取引実態調査報告書」(令和2年6月)では、消費者の利用規約に対する理解等の実態も調査しています。この中では、「会員登録の際に利用規約を読んだか」という質問に対して、約6割の消費者が利用規約を読んでいませんでした(下記P7部分参照)。
このことは、ポイント規約に対する一般的な関心の低さを示しています。では、もしもあなたがポイントプログラムの運営担当者になった場合、どのような内容をポイント規約に含めるべきか、どのように検討すべきかを理解していますか?
CRMやロイヤルティプログラムの担当者にとって、ポイント規約は必須の知識です。そこで、このコラムではマーケターが把握しておくべきポイント規約の重要な要素について、詳しく解説していきます。そもそものロイヤルティプログラムの基本的な解説は、別記事「ロイヤルティプログラムとは?他社事例から学ぶ3つの指標と実践方法」をご参照ください。
ポイントプログラム規約の基本構造と対象範囲
今回のコラムにおいて、ポイントプログラム規約に関するいくつかの重要な前提条件を明確にしておきましょう。
まず、本コラムで取り上げるポイントプログラムは、会員組織に参加している方々を対象としています。この文脈では、ポイント規約は会員規約の下位に位置づけられていると考えてください。一部のケースでは、会員組織とポイントプログラムが一体となっている場合、会員規約とポイント規約が一つに統合されることもあります。しかし、多くの企業ではこれらを別々の規約として扱い、それぞれに独立した内容を持たせています。このコラムでは、特にポイントプログラムの運営に焦点を当てて進めていきます。
次に、本コラムでは自社会員向けのポイントプログラムを想定しています。複数の企業が参加する共通ポイントプログラムのケースは含まれていません。
最後に、このコラムはマーケター向けに書かれており、マーケターが理解しておくべきポイントを中心にまとめています。実際にポイント規約を作成するときに必要な項目の順序や分類、細かい内容や文言については、法務部門や外部の専門家にご相談ください。
ポイント規約の基本要素
ここからはポイント規約の具体的な内容について話を進めていきましょう。ポイント規約には、特に記載順序の決まりはありませんが、一般的には以下の4つの主要なセクションに分けることができます。
ポイント規約のセクション | 概要 |
ポイントプログラムのサービスの定義・適用範囲・参加資格 | プログラムの提供サービス、適用範囲、参加資格や手順、資格取り消し時のポイント取り扱い、有効期限の設定などを説明。 |
ポイントの付与・加算 | ポイント付与の条件、タイミング、付与率、特定条件下でのポイント付与(キャンペーン等)、オンライン・オフラインでの適用差異などを説明。 |
ポイントの利用・減算 | ポイントの利用条件、利用範囲、還元率、減算タイミング、有効期限による減算方法、非購買行動によるポイント利用範囲などを説明。 |
その他事項 | ポイントの換金不可、譲渡不可、システム障害時の対応、ポイント規約の改定、プログラム内容変更や廃止時の取り決めなどを説明。 |
これらの項目に関してひとつずつ解説していきます。
ポイントプログラムのサービスの定義・適用範囲
ポイントプログラムを通じて提供するサービスはどのようなものなのか?
サービス自身がどの範囲まで適用されるのか?
ポイントプログラム参加のための具体的な資格や参加手順はどのようなものなのか?
このように、まずは参加希望者がポイントプログラムを参加する上での運営企業との基本的な合意事項の部分をまとめる必要があります。このセクションでは、参加の条件だけではなく参加資格の取り消しに関する部分や、その場合のポイントに関する取り決めを明示することが重要です。ポイントに有効期限がある場合、ポイント規約に明記しておくと参加者との間に合意があるため、なにか問題がおこった場合ポイント規約に基づき円滑な対応ができます。
また、ポイント規約で定められていない部分がある場合でも、上位規約である会員規約が適用されるとしておくなど、全体を俯瞰して規約を作成することが重要です。
ポイントの付与・加算に関して
ポイントプログラムの根幹であるポイント付与と加算に関しても、ポイント規約に記載しておく必要があります。
参加者のどのような行為によってポイントが付与されるのか?
ポイント加算のタイミングはいつなのか?
など、ポイントの付与条件や付与タイミングを明示します。
ポイントの付与率(例:100円購入につき1ポイント付与)や付与条件(例:値引品はポイント付与対象外)が複雑な場合は、ポイント規約の中で定義してしまうと付与条件の変更毎に規約の改定が必要となってしまいます。そこで、「ポイントは別途定める付与条件に基づき付与する」という一文を入れておき、ポイント規約の付帯ドキュメントとして条件を提示することができます。
また、オンライン・オフライン共通のポイントプログラムの場合、付与タイミングは同じなのか?あるいは異なるのか?も記載しておくことにより、参加者が戸惑わないのと同時に、「ポイントが加算されていない」というクレームを避けることができます。
加えて、期間限定や商品限定、購入経路限定等のキャンペーンで付与率が変わることも想定しておくことも重要です。最近では、購買に紐づかないポイント付与を行う企業も増えてきましたが、付与方法が増えた場合にも対応できる拡張性は、ポイント規約にとどまらずポイントプログラムの全体設計を行う上でも重要です。
ポイントの利用・減算に関して
ポイントプログラムのもう一つの根幹である、貯めたポイントの利用条件と減算タイミングに関しても解説します。
まず、ポイントの利用条件がある場合は、利用できる対象と範囲をあらかじめ明記しておくことが大切です。また還元率(1ポイント1円等)に関しても変更の可能性がある場合は、付与率同様に別ドキュメントで記載しておくことも検討してください。
ポイントの減算タイミングに関しても、加算タイミングと同様にどのタイミングで減算されるのか記載しておくと良いでしょう。
ポイントに有効期限がある場合、どのタイミングでポイントを減算するのかは、減算タイミングの一部として記載することも、ポイントの有効期限に付帯して記載することもできますが、どちらにしても、有効期限を規約に明記しておくことが後々のトラブルを未然に防ぐことにつながります。ポイントの加算の部分でも解説したとおり、購買が伴わないポイントの利用範囲なども合わせて決めておくと良いでしょう。
その他の事項
いままで記載した項目以外で、事前に同意をとっておくべき項目をご紹介します。
例えば、「ポイントは換金できない」「ポイントは譲渡できない」等のポイントの取り扱いに関するものや、システム障害時のポイント付与ができなかった場合の補償等、事前に想定できる範囲内の取り扱いを記載することで、運営をスムーズに行うことができます。
また、ポイント規約の改定に関してや、ポイントプログラムの内容変更、そしてそもそも廃止の場合の取り決めもあらかじめ想定して記載しておくと、その時々をスムーズに進めることができます。
ポイント規約が必要な理由
最後に、ポイント規約の根本的な必要性について触れます。
ポイントプログラムを運営する際に、法的にはポイント規約の準備と同意取得が必須なわけではありません。では、なぜ事前にポイント規約を準備し、同意を求めることが望ましいのでしょうか。
ポイント規約を準備せずにプログラムを運営すると、運営企業と参加者間で生じるさまざまな権利や義務について、個別に交渉を行う必要が生じる可能性があります。これは、運営上非常に非効率であり、多くの問題を引き起こす可能性があります。
そこで、前述のようなポイント規約の項目を設け、参加希望者に対してポイント規約への同意を必ず求めることが重要です。これにより、後々の問題に対して個別に対処するのではなく、ポイント規約に基づいて全参加者に対して一律の対応を行うことが可能になります。
このような理由から、ポイントプログラムを開始する際には、ポイント規約の準備を強くお勧めします。実際、数多くの企業がポイントプログラムを運営していますが、運営企業はポイント規約を作成しウェブサイト上で公開しています。運営企業によって規約の内容に特徴があるので、自社で検討しているポイントプログラムの形式に近い業種や企業の規約を確認してみてください。
ポイント規約はポイントプログラム運営に不可欠
このコラムでは、ポイントプログラムにおける重要なドキュメントの一つ、ポイント規約について詳しく解説しました。法的には必須ではないものの、ポイントプログラムの参加者数やポイントの量が増えるにつれて、様々なトラブルが発生する可能性が高まります。ポイント規約があれば、システムのメンテナンスや運営上のトラブルが発生した際にも、場当たり的な対応ではなく、規約に基づいた一貫した対応が可能になります。
さらに、ポイント規約は社会環境の変化や法令の改正に合わせて定期的に見直す必要があります。これにより、プログラムの運営がよりスムーズになり、参加者との間での信頼関係を維持しやすくなります。
ポイントプログラムがうまく運営できるかどうかは、適切に管理されたポイント規約に大きく依存しています。そのため、ポイント規約の重要性を理解し、適切に管理することが、プログラム運営者にとって不可欠です。
フュージョン株式会社では、30年以上さまざまな業界、業種のCRMやロイヤルティプログラムの戦略立案や施策設計、さらには実際の運用までワンストップでご支援しています。
今回解説したポイント規約の作成や改定のご相談はもちろん、ポイントプログラム戦略立案や運用設計、導入後の運用や改善提案などが可能です。ポイントプログラムに関してのご相談はお気軽にお問い合わせください。