このような課題を解決する方法として注目されているのが、顧客コミュニケーション設計です。顧客の心情に合わせた適切なコミュニケーションを設計することで、企業が理想とする行動変容を起こしやすくなり、結果として顧客ロイヤルティの向上や売上の拡大につながります。
ここでは、顧客コミュニケーション設計の重要性やポイントを含め、具体的な設計ステップについて紹介します。
顧客コミュニケーション設計とは、顧客に企業が期待する行動を取ってもらうために、あらかじめコミュニケーションのプロセスやストーリーを設計する取り組みです。効果的な設計をおこなうためには顧客を深く理解することが前提となり、単発的な売上の向上ではなく、長期的に顧客と良好な関係性を構築することを目指します。
これまでは大規模かつ単発でのプロモーション施策を実施し、短期的な売上を獲得する施策が一般的でした。しかしながら、単発でのプロモーション施策は顧客のロイヤルティが醸成されにくく、顧客と企業間でのコミュニケーションが不足しやすいデメリットがあります。
このような課題を解決する一助になるのが、顧客コミュニケーション設計です。長期的に顧客との接点を整理し、「いつ・誰に・どのように」情報を提供するかを検討することで、顧客満足度やロイヤルティが向上します。
さらに、リピート購入やクロスセル・アップセルを適切なタイミングで促進できるため、結果として企業の収益向上に繋がりやすい点もメリットのひとつです。
顧客コミュニケーション設計は売上を効率的に伸ばせるだけではなく、企業のブランドイメージを正しく顧客に伝えられる機会が増えることも大切なポイントです。ブランドイメージが顧客に正しく伝わることで、中長期的なブランドイメージの価値向上にも寄与するでしょう。
顧客コミュニケーションは、いくつかのポイントを押さえたうえで設計することが重要です。
ここでは、特に気をつけるべき3つのポイントについて紹介します。
CXは大きく以下の2種類に分けられます。
上記のCXはいずれも大切な要素ですが、顧客コミュニケーションを設計する際に特に重視したいのは、「意味のあるCX」です。
摩擦のないCXがマイナスな感情を最低限に止める(減点をなくす)ための視点と考えると、意味のあるCXは顧客にポジティブな感情を持ってもらうための視点です。顧客に期待する通りの行動を起こしてもらうためには、顧客自身に「行動したい」と思ってもらえるよう、ポジティブな働きかけが欠かせません。
摩擦のないCXはいわゆる「勝ちパターン」を確立しやすく、模倣可能なのが特徴です。そのため、摩擦のないCXだけを追求しても、競合他社との差別化は難しいでしょう。
一方で、意味のあるCXは摩擦のないCXに比べ、模倣が困難です。特にしっかりと顧客視点で練り込まれた意味のあるCXは、企業独自のオリジナリティを発揮しやすいのが特徴です。
長期的に効果のある顧客コミュニケーションを設計するためには、意味のあるCXで独自性を追求しつつ、機会損失を最小限にするために、摩擦のないCXも抜かりなく設計することが大切です。
意味のあるCXと摩擦のないCXをバランス良く組み合わせるためには、オンラインとオフラインの施策をうまく組み合わせましょう。
それぞれを使い分ける考え方は以下の通りです。
たとえば、コミュニケーション戦略として一般的なバースデー施策において、誕生月の前月末にダイレクトメール(オフライン)が届くよりも、誕生日の当日にEメール(オンライン)でお祝いメッセージが届いた方が、より「誕生月の人全員」ではなく「顧客個人」にメッセージを送っている印象が強くなるでしょう。
さらに、誕生日当日のお祝いメールで「後ほどダイレクトメールで特別なプレゼントを送ります」と伝えたうえでDMが届けば、特別感を損なわず強い印象を与えられるのではないでしょうか。
フュージョンでは、オンライン施策とオフライン施策を組み合わせた顧客コミュニケーション設計・施策実行のご支援実績があります。ご興味のある方は、下記の記事もあわせてご一読ください。
ここからは、コミュニケーション設計書を用いた具体的な顧客コミュニケーションの設計方法について、基本的なステップを解説します。
まずは、どの顧客に対してのコミュニケーション設計をするか対象者を決めます。
セグメントでは、「購入回数」や「最終購入日からの経過日数」などの購入履歴をベースに対象者を分類していくとよいでしょう。またこの際に、除外条件も決めておくと、より精度の高いセグメントを作成できます。
対象者を決めたら、その顧客に対するキャンペーンのスタートとゴールを定めましょう。スタートは顧客の現状の心情や行動、ゴールはその顧客に期待する結果を指します。
現状の顧客の心情や行動と、ゴールの状態にある心情と行動を言語化することで、コミュニケーション設計の軸となる施策やコンテンツを検討しやすくなります。
次に、現状の顧客がゴールに辿り着くためには、どのような心情変化や行動変容が必要かを検討します。さらに、それらの心情変化・行動変容が起きるために必要なコンテンツは何か、いつ伝えるのが適当かを時系列で整理しましょう。これが、具体的な施策フローの基盤になります。
それぞれの施策は顧客の行動もしくは、前の施策を基点として「〜から⚪︎日後」のように、具体的なタイミングを設定します。顧客コミュニケーション設計は長期的な施策になることをあらかじめ理解し、顧客の心理変化・行動変容が自然とゴールに向かうよう、ロングスパンで設計しましょう。
また、顧客コミュニケーション設計では、基本的にシナリオ分岐は設けませんが、ゴールに早い段階で到達した対象者がいた場合には、その人を除外するタイミングは設けておくとスムーズです。
さて、ステップ③でそれぞれの施策コンテンツとタイミングを決定したら、チャネルを選定します。効果的に伝えられるチャネルを選ぶことはもちろんですが、設計書全体を通して無理のない予算組みになっているかも重要な観点です。
さらにこのステップでは、全体を通して矛盾が生じていないかを確認し、必要であれば施策の順番を入れ替えたり、コンテンツを修正したりする作業も発生します。
特に、ゴールに向けて期待通りの心情変化が起きそうか(意味のあるCXになっているか)、施策からゴールへスムーズに誘導できているか(摩擦のないCXになっているか)は念入りに確認しましょう。
ここまでで顧客コミュニケーション設計はひとまず完成し、実際に計画した施策を実行していきます。
施策を実施したあとは、実際に顧客が狙い通りの心情変化・行動変容をしているかをモニタリングし、施策をブラッシュアップします。
また、複数のセグメントで顧客コミュニケーション設計を作成すると、シナリオが数百本できてしまうケースもあります。この際に、セグメントがきちんと整理されていないと、1人の顧客が複数の設計書の対象になり、1週間に何度もメールが届いてしまうことになりかねません。
このような事象が発生しないよう、顧客視点で施策を確認したり、セグメントの定義を見直したりすることは大切です。
顧客コミュニケーション設計ではタイミングに応じて、最適なチャネルを活用することが大切です。活用できるチャネルは多岐に渡りますが、今回は代表的な施策についてオフラインとオンラインに分けて5つ紹介します。
ダイレクトメールは、顧客個人の手元に直接届けることができるオフライン施策です。BtoCの場合、個人宛に手紙が届く感覚に似ていることから、特に強く印象付けることができるツールとして用いることが可能です。
BtoBの場合でも、訴求したい商品やサービスの詳細を一覧性の高い紙で閲覧できることから、伝えたい情報がブレずに複数人へ届けられるなどのメリットがあります。
店頭プロモーション(インストアプロモーション)も代表的なオフライン施策のひとつです。スーパーマーケットや家電量販店などの店頭で実際の商品を手に取ってもらうことで、購買意欲を促す効果があります。
顧客コミュニケーション設計で活用する場合は、店頭プロモーションを利用して試供品を配るのも効果的です。
Eメールはオンライン施策で代表的なツールです。EメールはDMや店頭プロモーションなどに代表されるオフライン施策に比べ、タイミングよく顧客へアプローチできる特徴があります。
一方で、Eメールでは魅力的なタイトルにしなければ開封してもらえず、肝心の本文(コンテンツ)が読まれないことになりかねません。Eメール施策を実施する際には、より効果のあるタイトルやコンテンツになるようA/Bテストを取り入れながらブラッシュアップしていくことが大切です。
下記はEメール配信のシナリオ設計例です。
訴求したいサービス・商品に対応するスマートフォンアプリを提供している企業であれば、プッシュ配信も効果的なオンライン施策として活用できます。
プッシュ配信とは、スマートフォンのTOP画面に通知付きで情報が表示される機能です。DMやEメールに比べ視認率が高く、通知をタップするだけでアプリケーションが起動されるため、コンテンツへの誘導もスムーズな点がメリットです。
Webサイトやアプリケーションを活用してコミュニケーション施策を実施する方法もあります。代表的な例としては、過去の購入履歴から算出し、商品を使い切るタイミングでマイページにリピート購入を訴求するなどが挙げられます。
ただし、Webサイトやアプリケーションを活用したコミュニケーション施策は、顧客がサイト・アプリに訪れるという行動変容が必要なため、Eメールやプッシュ配信などスムーズな誘導ができるツールと組み合わせるとよいでしょう。
この事例では、ポイントカード入会者を対象者とし、クレジットカードへの切り替え手続き(発行)をゴールに定めています。また、対象者の心情では、クレジットカードの発行を忘れていた場合を想定し、それに沿ったコミュニケーション設計書を作成しました。
まずは、ポイントカードをクレジットカードに切り替えるようEメールとDMを用いて訴求し、特設LP(ランディングページ)への誘導を図ります。今回は理想のフローから外れた顧客に対して、適切なタイミングでリマインドをするところまでフローに組み込むことで、離脱者を最小限にとどめるよう工夫しています。さらに成約可能性が高いタッチポイントで離脱した顧客に対しては、オペレーターからのリマインドコールを実施するなど、顧客の状況に応じた施策を取り入れました。
顧客コミュニケーション設計は、自社の顧客の心情を深く理解することが最も重要です。顧客の視点に立ち、最適なタイミングやコンテンツを見極めることで施策の効果は大きく変わります。
また、より効率的に施策の効果を高めるためには、施策を実施したあとに効果をモニタリングしながら、設計書をブラッシュアップしていく作業が欠かせません。
顧客コミュニケーション設計の作成を検討しているものの、なかなかうまく進まない、進め方がわからないといった悩みをお持ちの担当者様はぜひフュージョン株式会社にご相談ください。また、以下にてコミュニケーション設計書のテンプレートをご用意していますので、ぜひご活用ください。
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