BtoBでの新規顧客開拓手法のひとつとして、ここ数年でダイレクトメール(以下、DM)を活用する企業が増加しています。
BtoB企業のDM施策では、1件当たりの新規顧客獲得にコストをかけることができるので、箱型DMに代表される目に留まりやすい形状での制作が可能です。フュージョンでも、BtoB企業様からの新規顧客開拓向けDM施策実施のご相談を受けることが増えています。
そこで今回のコラムでは、BtoB企業の方向けに、失敗しないためのDM企画設計のポイントについて、BtoCでDMを活用する場合と比較しながら解説します。
BtoBマーケティングにおけるダイレクトメールの活用シーン
本題に入る前に、そもそもBtoBマーケティングにおいて、DMはどの段階で使うか簡単に解説します。
BtoB企業におけるデマンドジェネレーションの一連の流れに当てはめると、DMはリードジェネレーション(リード獲得)の段階で使用するケースが一般的です(下図参照)。
BtoBでの新規顧客開拓の場合は、送り手の企業と関係性が薄い、もしくは関係性がない企業にDMを送ることが多くなります。もちろん、送り手の企業が自社リストを保有している場合は、そのリスト先に送付することもありますが、まだ顧客になっていないという点では関係性が薄いことは変わりありません。
一方で、BtoCの場合は、個人情報保護法施行以降、DM送付には対象者からあらかじめ利用許諾を得る必要があるため、一度でも商品を購入している、あるいは自分で個人情報を登録しているなど、DMの受け取り手は既にある程度企業と関係性を構築していると考えられます。そのため、たとえDMが送られてきても、受け取り手がDMを送られてきた理由を推測できる、もしくは認識している場合が多いです。
このような特徴があることから、まず送り手である企業や、企業の製品・サービス対し興味を持ってもらい、継続的なコミュニケーションをとることを目的として、新規リード獲得向けDM施策を採用するBtoB企業が多くなる傾向があります。
デマンドジェネレーション活動における複数の段階にまたがってマーケティング施策の成果を出したいと考える場合は、DMだけなど単一の施策ベースで成果を出そうとするのではなく、デマンドジェネレーションの一連の段階でどのような取り組みをするか、全体戦略や施策の検討も必要です。
BtoBでのマーケティング施策については、下記のコラムでもご紹介しているので、ご興味のある方はご一読ください。
BtoB企業のDM活用時は、目的の絞り込みが重要
それでは、BtoBでのDM企画・設計ではどのような点に気を付けると良いのでしょうか。
BtoB企業のDMでは、以下の点がマーケティング課題に挙がる傾向にあります。
- そもそも自社を知られていない
- 製品・サービスを知られていない
- 自社が提供するソリューションに興味がない
- DMを受け取る相手(=見込み顧客)のことをもっとよく知りたい
- 自社と顧客との関係性が深まらない
そのため、ひとつのDMに託したい目的もこれらの課題に合わせて多くなりがちです。
BtoC企業の場合であれば、DM施策実施の目的は、店舗への送客や新製品の案内等シンプルなケースが比較的多くなります。これは、一般消費財と呼ばれる商材のDMは、一通のDMにかけることのできるコストが限られるため、はがきや定型封筒、圧着はがき等が主流で、一回のDMで伝えられる情報量が限られるからです。そのため、目的が大きくぶれることはあまりありません。
BtoBの場合、前述したような課題があることで、つい目的がぶれたり、複数の目的をひとつのDM施策に託そうとしてしまうことがあります。例えば年賀状DMのように、既存顧客のエンゲージメントを強化するために実施する場合もあれば、まったく接点のない新規顧客開拓を目的に行う場合もありますが、仮に両方の目的をひとつのDM施策に入れようとすると、施策の成果指標を決めるのが難しくなります。
高い成果を出すためには、DM施策を企画する段階で、どの課題を解決したいのかを整理し、目的を絞ることが大切です。
フュージョンでは、DM企画設計用のブリーフィングシートを公開しています。
社内での事前情報整理にご活用ください。
なお、目的を整理していく中で、複数の施策を組み合わせたほうがより良いマーケティング施策が実施できる場合もあるでしょう。BtoBの新規開拓に活用できるマーケティング施策については、下記のコラムでもご紹介しているので、あわせてご一読ください。
BtoBビジネスの特徴を改めて理解する
BtoB DMを成功させるためには、前提となるBtoBビジネスの特徴を理解する必要があります。
購買の関与者が複数で多層である
BtoBでは、意思決定に多くの関係者が関わります。これには、経営層、購買部門、実際のユーザーなど、異なる役割と責任を持つ人々が含まれます。
一方、BtoCでは通常、個々の消費者が直接製品やサービスを選択し、購買決定を行います。
購買決定までに時間がかかる
BtoBの決定プロセスは、一般的にBtoCよりも時間がかかります。これは、高価値の契約、長期的なビジネス関係の構築、詳細な調査と承認プロセスが発生するためです。
BtoCでは、購買決定は比較的迅速です。ときどき「インパルス購買」と呼ばれるような、その場の衝動や感情に基づいた購買決定がなされることも特徴です。
意思決定の心理は論理的で合理的である
BtoBビジネスでは、意思決定はROI(投資収益率)、効率性、製品の性能などの論理的な基準に基づいて行われます。対照的に、BtoCでは感情やブランドイメージなど非論理的な要素が消費者の決定に大きく影響を与えることがあります。
つまり、BtoBの購買行動モデルは、「多数かつ多層」の関係者間の「論理的で合理的」な意思決定プロセスにおいて「決定までの長期間」にわたる最適な関係作りを念頭に置く必要があります。
一方で、BtoCビジネスでは、個々の消費者のニーズ、感情、および迅速な購買決定プロセスに重点を置く必要があります。
これらの特徴は業界を問わず共通であり、DMで効果を上げるにはBtoBビジネスの特徴を踏まえた設計が必要です。
下記のコラムでは、BtoB DMの成功事例について解説しています。合わせてご参照ください。
BtoB DMは送付対象者(=リスト)で成功度合が左右される
リストとは、顧客あるいは見込み客の個人情報のことです。リストが良ければDMの成功率はぐっと上がります。成果を生むためにリストをどのように活用すればよいのでしょうか。ここではリストの作り方や活用方法をご紹介します。
ステップ1.ターゲットを明確にする
どうやってリストを入手・作成すればよいか考える前に、まず自社のターゲット像を明確にします。性別や年代といった切り口だけでなく、居住地や収入、趣味嗜好、物を買う時にどのような判断基準で選ぶのかといったことまで可能な限り想定しましょう。
ターゲットを具体化すると、どのようにリストを入手・作成すればよいのか検討しやすくなります。さらに、クリエイティブやオファーを決定するための指針にもなります。
ステップ2.リストを入手・作成する
ターゲットを定めたら、次にそのターゲットに適切に届けられる送付リストを準備する必要があります。ここでは特に、BtoB向けのDMで活用できるリストの入手・作成方法をご紹介します。
専門業者からリストを購入する
特に新規のアプローチ先を大量にリストアップする必要がある場合、専門の業者からリストを購入することができます。比較的簡単に利用できる方法ですが、以下の点に注意しましょう。
-適法であること
個人情報の売買自体は違法ではありませんが、個人情報保護法に則って取得・提供されていることが大前提です。不正な方法で入手されたリストを利用すると、DMが届いた顧客からクレームが届いてしまうリスクがあります。思わぬトラブルに巻き込まれないためにも、適法な業者を選びましょう。
-テストを行うこと
専門業者のリストはデータ件数が多い分、古いデータが含まれていることも多くあります。
特に初めて利用する場合には、いきなり大量のデータを購入せず、少ない件数でテスト送付を行い、不達となる割合を事前に把握しましょう。また、KPIを設定する場合も、不達となる割合を考慮したうえで設定することが大切です。
地域指定配達を利用する
地域指定配達とは、個人名がなくとも地域・宛先の属性を指定して配達できるサービスです。
代表的なものでは、日本郵便のタウンプラスなどが挙げられます。
地域指定配達は、実店舗があり商圏が明確な場合や、富裕層・子供のいる家族などターゲット属性と居住エリアの関連が高い場合に適している手法です。BtoB向けにも、エリアと業種等の属性を指定して配送できるサービスがあるため、ターゲットが合う場合は積極的に利用すると良いでしょう。
公開情報を利用する
BtoBビジネスでは、インターネットや業界団体の発行する名簿等で公開されている情報を収集し、独自のリストを作成する方法も有効です。リストの作成は手作業になるため手間はかかりますが、アプローチすべき部署や個人をきちんと見極めてリストが作れる利点もあります。
ただし、公開情報の場合は部署名や担当者名までは取得できないケースがほとんどのため、狙う部署にDMが届くような工夫が必要な点は注意しましょう。具体的には、スラグタイトル(特定の個人ではなく、役職や部門、担当などを対象とした曖昧な宛先のこと)を利用してDMを送る方法が考えられます。
資料請求やセミナー・イベントで入手したリストを利用する
過去に資料請求した人の情報や、イベント出展の際に入手したリード情報を送付リストとして活用する方法も、BtoBビジネスでは有効です。
この手法を採用する場合、資料やイベントの内容とターゲットの属性やニーズが合っていることが重要です。さらに、自社とすでに接点があるため、興味を持っているターゲット層のリストであれば、高いレスポンス率が期待できます。
サンプル・デモ利用者のリストを利用する
無料や格安のサンプル・デモの利用者をリスト化する手法です。
資料請求やイベントを通じたリスト獲得に近いですが、商品そのものにすでに関心を持っている、使用したことがあるという点で期待されるレスポンス率はより高くなります。
ステップ3.リストをメンテナンスする
上記の方法で取得したリストにDMを送る際には、必ずリストを一度メンテナンスすることが大切です。
特に購入したリストや過去のイベントなどで入手したリストには、既存顧客が含まれている可能性があります。さらに、いくつかの入手方法で取得したリストを同じDMに利用する場合、重複がないかもあらかじめ確認すると良いでしょう。
BtoB DMでは、受け取り手のアクションを促すシナリオ設計が必須
BtoB DMでよくある失敗例として、既存のチラシや封筒を代用して送るようなケースがありますが、この方法はおすすめできません。DMで受け取り手のアクションを促すには、BtoC DMの場合と同じようにシナリオ設計が重要です。
BtoBマーケティングの場合、先述したとおりBtoCとは異なる購買行動が起きるため、「ASICA」などBtoB向けのフレームワークをベースにDMのシナリオ設計を行うのが良いでしょう。
「ASICA」とは、一般社団法人日本BtoB広告協会副会長などを務めた河内英司氏が提唱したフレームワークで、具体的には下記のプロセスを指します。
Assignment(課題):自社の課題を認識する
Solution(解決):課題の解決方法を探す
Inspection(検証):解決策の有用性や費用対効果、競合における優位性を検証する
Consent(承認):社内で承認を得る
Action(行動):商材の契約に至る
フュージョンでご支援したBtoB DMのデザイン企画・設計に関する解説は、下記のコラムでご紹介しています。ぜひご一読ください。
BtoB DMの改善はフュージョン株式会社へお任せください
予算をかけることができるBtoB DMでは、目的の異なるコンテンツを複数送り、段階的にクリアすべき多くの課題や目的を一回のDMで達成したいと考えがちです。
しかし、複数の目的を託したDMを成功させるためには、クリエイティブの力はもちろん、クリエイティブ制作に至るまでの戦略部分、特に見込み客/顧客理解が重要です。
フュージョン株式会社が提供するBtoB向けDMサービスでは、顧客コミュニケーション全体の戦略設定から実際の企画・制作・効果検証までを伴走型でご支援しています。
初めてダイレクトメールの実施を検討している場合や、現在実施しているダイレクトメール施策の効果に課題をお持ちの場合は、ぜひ一度フュージョン株式会社へお問い合わせください。