現代のビジネス環境では、顧客データの活用は避けて通れないものとなりました。特にマーケティング・CRM領域では、その効果を最大化するために、顧客データからわかる事実や検証結果を戦略策定や施策設計に活かそうとする傾向が高まっています。
しかし、単にデータ収集・可視化を目的にMA/CRMツールやBIツール等を導入しただけでは、想定したような取り組みにはならず、満足できる効果は得られません。
このコラムでは、顧客データを活かしたCRM戦略立案から施策設計までの進め方について、以下の順で解説します。これらを理解し活用することで、データを最大限に活用した効果的なCRMを実現できます。
<データを活用したCRM戦略立案~施策設計のポイント>
データ分析の目的は?CRMで見るべき主要なマーケティング指標
CRMにおける売上方程式:マーケティングの成果を数値化する
顧客セグメントで戦略を考えよう:データに基づいた顧客理解
戦略ごとのKPIを作ろう:目標設定と実績モニタリング
施策実施後の効果検証でKPI達成しているか確認しよう:データに基づく評価と改善
データ分析の目的は?CRMで見るべき主要なマーケティング指標
最初に理解しておくべきは、何のためにどのようなデータを分析すべきか、そしてそのデータが何を示しているのかということです。顧客の行動や傾向を把握できるデータはさまざまありますが、その全てを一度に分析しようとすると、情報過多になり、どこに注目すべきかがわからなくなることもあります。
データ分析は「手段」、大事なのはその「目的」
データ分析はあくまで手段です。目的が定まっておらず、あいまいなままデータ分析を行ったりデータ活用を検討しても、その効果は得られません。
例えば、マーケティング施策の効果検証を行い、「30,40代女性で3回以上購入実績がある顧客の反応がよかった」という結果が得られたとしましょう。
しかし、そのデータをどう活用するのかが決まっていなければ、それはただの結果です。
①ビジネスの現状や特徴、課題感
②なぜデータ分析が必要となったのか、その背景
③データ分析した結果を、どんな意思決定に使うのか
④これまでに実施済みのデータ分析
これらを最初に明確にし、その上で、「データを分析して明らかにしたいことは何か」を整理します。
例えば、実際に当社にご相談いただいたBtoC企業様では、下記のように整理しました。
①ビジネスの現状や特徴、課題感
→商品価格帯は低単価~高単価までさまざま
→データを蓄積しているが、自社の顧客像が見えないことが課題
→今は顧客全員を対象にマーケティング施策を行っているが、対象を絞り込みたい
②なぜデータ分析が必要となったのか、その背景
→人口減少により新規獲得が難しいため、既存顧客の維持に重点を置くこととなった
→既存顧客の特徴や購買傾向に合わせたDM施策の実施を考えている
→データ分析の結果を元に対象者をある程度絞り込みたい
→施策の結果はデータで取得できるようにし、効果測定することで次施策へ活かしたい
③データ分析した結果を、どんな意思決定に使うのか
→全顧客の中でも特に大切にすべき顧客の定義
→施策対象者の絞り込み基準の決定、施策内容の決定
④これまでに実施済みのデータ分析
→マーケティング部署でRFMは見ている
上記4点を整理した結果、「データを分析して明らかにしたいことは何か」の答えは「売上構造の把握」「既存顧客の属性把握」「既存顧客の購買傾向把握」でした。
【売上構造の把握】
【既存顧客の属性把握】
【既存顧客の購買傾向把握】
その後、「データ分析」を行った結果、下記が判明しました。
・全体売上の40%は、顧客全体の10%が支えている
・高頻度中単価
・顧客は主に女性である
この結果から「既存顧客の中でも特に売上を支えている10%の顧客を優良顧客とし、この層を維持・育成することが売上の維持・増加につながる」という示唆を得ることができました。
このように、データ活用の目的をしっかり定義しデータ分析を行うことで、マーケティング施策改善に活かせる結果を得られます。
CRMで見るべきマーケティング指標の選定
次に、CRMデータを活用するために重要となるのが、マーケティング指標の選定です。全てのデータが等しく重要というわけではありません。自社のビジネスの目標や戦略によって、注目すべき指標は変わります。
(注目すべき指標の例)
新規顧客獲得を目指している場合:ウェブサイトへの訪問者数や新規顧客の獲得数など
既存顧客のロイヤルティ向上を目指している場合:リピート購入率や顧客満足度など
また、これらの指標をただ見るだけではなく、それぞれが何を意味し、どのようなアクションにつながるべきかを理解することも大切です。
例えば、リピート購入率が低いというデータがあった場合、それは顧客満足度が低い、あるいはリピート購入を促す施策が不足しているという問題を示しているかもしれません。そのような場合、顧客満足度を向上するための施策やリピート購入を促すためのキャンペーンを考える必要があります。
このように、データをただ見るだけではなく、目的を踏まえたときに各データが何を示しているのかを理解し、それに基づいたアクションを考えることが、データを活かしたCRMの基本となります。
下記の図は、フュージョン株式会社でご支援した小売業界企業様において、店舗アプリデータを分析する目的の整理と、分析設計案のイメージです。事前の分析設計を関係者間で共有し、共通の目的意識を持つことも大切です。
CRMにおける売上方程式:マーケティングの成果を数値化する
マーケティングの成果を具体的に把握するためには、成果を数値化することが重要です。そのための一つの手法として、「売上方程式」があります。売上方程式とは、売上を構成する要素を数値化し、それぞれの要素が売上にどのように影響を与えるかを明確にするための方程式です。
CRMにおける売上方程式は、一般的には以下のように表されます:
この方程式を見ると、売上を増やすためには、以下の3つの要素をどのように増やすか、または改善するかが重要であることがわかります。
- 顧客数:新規顧客獲得、既存顧客維持
- 顧客あたりの取引回数:顧客のリピート購入促進
- 取引あたりの平均取引金額:顧客が一度に購入する商品の価格や数量UP
この売上方程式を用いて、自社のマーケティング活動の成果を数値化し、どの要素に焦点を当てるべきかを明確にすることができます。なお、売上方程式はCRMツールなどで収集しているデータを活用して計算することが可能です。これにより、データに基づいた具体的なマーケティング戦略の策定が可能となります。
顧客セグメントで戦略を考えよう:データに基づいた顧客理解
データを活用したCRMを進める上で、自社の顧客を理解することは非常に重要です。そのためには、顧客データを基にした顧客セグメントが必要となります。
顧客セグメントとは、顧客を特定の基準や特性に基づいてグループ化することです。これにより、各顧客グループの特性やニーズを理解し、最適なCRM戦略策定・施策設計が可能となります。
顧客セグメントの基準の例としては、地理的な位置、人口統計学的な特性(年齢、性別、収入など)、行動特性(購買行動、利用頻度など)、心理学的な特性(ライフスタイル、価値観、好みなど)があります。
これらの基準を用いて顧客をセグメント化することで、各顧客グループの特性を理解し、それに基づいて最適なCRM施策設計を行うことができます。例えば、一定の年齢層や地域に住む顧客が特定の製品を好む傾向があるとわかった場合、その顧客セグメントに対するマーケティング施策を打つことが考えられます。
特に近年は、個人情報保護の規制強化により、外部とのデータ共有や購入が難しくなっており、多くの企業が自社データの収集と保有を強化しています。収集した自社の顧客データから顧客の解像度を上げ理解を深めることが、データドリブンマーケティングにおいて重要です。
戦略ごとのKPIを作ろう:目標設定と実績モニタリング
CRM戦略を立てる際には、その戦略が成功したかどうかを評価するための指標、すなわちKPI(Key Performance Indicator)を設定することが重要です。KPIは、戦略の目標を明確にし、その達成度を定量的に測るためのツールとなります。
KPIは戦略ごとに設定することが一般的で、その内容は戦略の目的によります。例えば、新規顧客獲得を目指す戦略であれば、「新規顧客数」や「新規顧客からの売上」などがKPIとなるでしょう。一方、既存顧客のロイヤルティ向上を目指す戦略であれば、「リピート購入率」や「顧客満足度」などがKPIとなります。
KPIを設定する際には、SMARTの法則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)を意識すると良いでしょう。具体的(Specific)で、測定可能(Measurable)で、達成可能(Achievable)な、戦略に関連する(Relevant)目標を、時間軸を設けて(Time-bound)設定します。
KPIを設定したら、それを定期的にモニタリングし、戦略の修正や改善を行うことが重要です。BIダッシュボードでの可視化などを行えば、日々のKPIのモニタリングや分析が容易になります。
(ダッシュボードの参考イメージ)
フュージョンではBIツールを用いたダッシュボードによる可視化のご支援も行っていますので、ご興味のある方はご支援事例をご覧ください。
施策実施後の効果検証でKPI達成しているか確認しよう:データに基づく評価と改善
マーケティング施策を実施した後は、その効果を検証し、KPIが達成されているかを確認することが重要です。これにより、施策の成功度合いを評価し、必要な改善点を見つけ出すことができます。
効果検証のためには、施策実施前のデータと施策実施後のデータを比較します。例えば、新規顧客獲得を目指す施策であれば、施策実施前後の新規顧客数や新規顧客からの売上を比較します。また、既存顧客のロイヤルティ向上を目指す施策であれば、施策実施前後のリピート購入率や顧客満足度を比較します。
この比較結果をもとに、KPIが達成されているかを確認します。KPIが達成されていれば、施策は成功と言えます。しかし、KPIが達成されていなければ、施策の改善が必要です。その際は、データを詳しく分析し、KPI達成に至らなかった原因を探ります。
なお、効果検証の際は、単に施策実施前後の比較検証だけでなく、施策実施前に立てていた仮説と実施後の結果がどのように比較できるのかもあわせて検証すると良いでしょう。
施策の効果検証と改善が繰り返されることで、マーケティングの効果を最大化することができます。また、最終的には顧客満足度を向上させ、売上を増加させることが可能になります。
顧客データを活用したCRM戦略立案・施策設計はお気軽にご相談ください
顧客データを活用することで、顧客の行動やニーズを詳細に把握し、それに基づき顧客ひとりひとりに合ったマーケティング施策を策定することが可能になります。
フュージョン株式会社では、顧客データを活用したCRM戦略立案から施策実行まで伴走型で支援しています。お悩みのある方はお気軽にお問い合わせください。