自社での顧客データの収集・保有は、データドリブンなマーケティングにおいて重要です。これはリテンションを担当する方だけでなく、新規顧客の獲得を目指すアクイジション担当者の方にとっても同様です。個人情報保護の規制強化により、外部とのデータ共有や購入が難しくなっており、多くの企業が自社データの収集と保有に関心を持ち始めています。
しかし、経営層がデータ保有の重要性を理解していない場合や、データプラットフォームの導入と運用に関するコスト効果を評価できないことも問題です。
このコラムでは、自社のファーストパーティデータの収集・保有がなぜ重要かを詳しく解説します。
ファーストパーティデータの価値の高まりと必要性
ファーストパーティデータは、「自社で収集し、保有している顧客のデータ」で、主に顧客のデモグラフィック情報やデジタルスペースでの行動データ(購買行動も含む)として定義されています。
これに対して、自社のパートナー企業が収集したデータはセカンドパーティデータ、自社とは関係のない第三者が収集したデータはサードパーティデータとされています。
自社から見た顧客のデータの精度はやはりファーストパーティデータが一番高く、次にセカンドパーティデータ、最後がサードパーティデータの順になります。また、一番精度が低いとされているサードパーティデータは、“誰”が収集したかによってその精度が変わります。
少し前までは、これらデータを自社で収集・保有する以外でも、様々な企業や自治体がいろいろなビジネス活動を通じて個人のデータの収集・提供を行っていました。そういう時代であれば、自社でデータを保有していなくても、第三者が保有する個人データをマーケティングに活用しビジネスを展開することも可能でした。
しかし、GDPRや日本の個人情報保護法の強化により、状況が一変しました。日本では、2005年施行の個人情報保護法より、本人の許諾が確認されないサードパーティデータの利用ができなくなりました。
また、2022年の改正でcookieも個人情報に含まれることが明確になりました。これにより、cookieを利用したデータ収集には本人の明確な同意が必要とされ、デジタルマーケティングの活動に多くの制限が加えられました。このような個人情報をとりまく社会環境の変化がファーストパーティデータの保有の重要性につながっています。
データの種類 | 定義 | 具体例 |
ファーストパーティデータ | 企業が直接顧客から得たデータ。 データの収集と管理を行い、プライバシー保護も自社でコントロ―ルする。 |
自社ウェブサイトのユーザー行動データ 顧客の購買履歴 アンケート回答 店舗での顧客情報 |
セカンドパーティデータ | 他の企業が直接収集したデータ。 パートナーシップなどを通じて触接取引される。信憑性が高い。 |
ビジネスパートナーから共有された顧客リスト 共同プロモーションの参加者デー タ |
サードパーティデータ | 外部の第三者が収集し、複数の企業に販売するデータ。 広範な情報を得ることが可能だが、精度や関連性にばらつきがある。 |
広告ネットワークから購入するデモグラフィックデータ オンライン行動データ |
ファーストパーティデータとゼロパーティデータの関係
近年、ファーストパーティデータに加え、ゼロパーティデータという言葉が注目されています。これは、Forrester Research社によって提唱されたもので、「顧客が意図的・積極的に企業と共有するデータでユーザーが企業に『自分』をどのように認識してほしいかなどが含まれる」と定義されています。ゼロパーティデータには、性格、趣味、価値観などの個人的な情報が含まれ、顧客の内面に関わるものです。
なお、ゼロパーティデータはファーストパーティデータの一部であり、それ自体が独立したデータ群として存在するわけではありません。
このゼロパーティデータの収集には、顧客との関係性の構築が一番重要です。顧客が企業に対して好意を感じていて自分をもっと知って欲しいという感情を持っていれば、データの収集は比較的簡単です。しかし顧客が企業や商品を信頼していない、そのような感情を持っていなければ、そうはいきません。
例えば、商品を購入時にアンケートを同梱して収集しようとしても、そのアンケートに答えてくれない、もしくは正確に答えてはくれないでしょう。
また、ゼロパーティデータの収集と蓄積には時間とコストがかかります。また収集からの時間経過や社会環境の影響によっても変化するため収集間隔や回数、また収集方法や回答形式など気を付ける点はたくさんあります。しかしゼロパーティデータを収集し、ファーストパーティデータとあわせて分析することでいわゆる顧客インサイトを発見しやすくなります。
ファーストパーティデータの収集
ファーストパーティデータの効率的な収集には、適切なツールの利用と、それを使いこなすためのシナリオや顧客コミュニケーション設計が重要です。
データ収集のための代表的なツールといては、DMP(Data Management Platform)やCRM/コマースプラットフォームが挙げられます。これらのツールを組み合わせ、顧客コミュニケーション設計とシナリオに基づいたタッチポイントと提供コンテンツによる顧客の行動や反応をトラッキングし、より精度の高いデータを個人に紐づけて収集していきます。
また、CRMプラットフォームを通じたロイヤルティやポイントプログラムなどのリテンション施策を実施し、顧客との関係性を深めることができれば、ゼロパーティデータの収集も容易に進められます。
ファーストパーティデータの収集においては、アクイジション施策、リテンション施策問わず、施策で使用するタッチポイントではどのような顧客に付随するデータが収集できるのかという視点を持つことが大切です。
データ収集時のポイントは「よくばらないこと」です。企業視点では、顧客と1回の接触でできるだけ多くの情報を収集したいと考えがちです。その結果、「なぜこのタイミングでこの情報が必要なのか?」という疑問を顧客に抱かせてしまうことがあります。
これは、「今は使用する予定はないが、将来使用するかもしれないので収集しておこう」「不要になった情報だけど、将来使用するかもしれないので保有し続けよう」とも考えから起こる傾向があります。
しかし、不必要な情報を収集し保有し続けることは、企業にとってはリスクでしかありません。常に必要な情報のみを最適なタイミングで収集することを心がけましょう。
顧客のデータ提供の見返りに企業が提供できる価値
顧客がゼロパーティデータを含むファーストパーティデータを提供する際、多くの場合、「私が情報を提供する見返りは何か?」と無意識に考えています。
この見返りが顧客の提供する情報の価値と見合っているか、あるいはそれを上回っていれば、顧客は情報を提供することに同意するでしょう。
この見返りとして、企業から顧客に提供できる価値は、金銭的価値・利便的価値・心理的価値の三つに大別されます。
金銭的価値には割引やキャッシュバック、利便的価値には製品やサービスの使い勝手の向上、心理的価値には製品やブランドへの満足感、といった例があります。
特に、ゼロパーティデータの収集には、これらの価値を通じて顧客との関連性を深めることが重要です。そのためには、顧客が提供する価値がその情報の提供に見合うものであると感じるよう、企業は積極的に関係性を育む努力をする必要があります。
CRMでのデータ収集・活用支援はフュージョン株式会社にご相談ください
外部環境、特に規制の強化により、ファーストパーティデータの重要性が増しています。このようなデータは、顧客インサイトの開発に不可欠であり、提供する製品やサービスの顧客体験向上のためにも重要です。
しかし、ファーストパーティデータの収集や保有、利用にはコストが伴いますし、データマネージメントプラットフォームの導入と運用も欠かせません。
フュージョン株式会社は30年以上にわたりCRM支援サービスを提供し、顧客のデータ収集や活用のための戦略策定から運用、分析までを支援しています。
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