数年前から「ビッグデータ」という言葉をあちこちで聞くようになりました。近年は、IoTの普及が進み、取得できるデータの種類、量も増えてまさに「ビッグデータ」が身近なものになっています。
しかし、いくらデータがあっても、目的に合わせて適切に集計・分析ができなければ自社のマーケティングで役立てることができません。
特に近年はCRMの重要性が高まっており、マーケティングにおいては、顧客それぞれに合ったコミュニケーション設計がより大切になってきています。データの活用により、自社サービスを利用している顧客の属性や行動を把握できれば、適切なマーケティング施策を実施でき、効率的な売上の向上が期待できます。
今回のコラムでは、これらのマーケティング活動をおこなう際に役立つ「BIツール」について、概要や導入事例を詳しく紹介します。
Excelでの分析の限界とBIツール併用のメリット
マーケティングデータを使った集計・分析には、やはりMicrosoft Excelを使うのが一般的です。
データ活用に関するアンケートによると、データ分析にExcelを使っていると回答した企業は80%を超えており、さらにデータ集計・可視化に強い「BIツール」を導入している企業でも、Excelと併用している企業は87%と高い結果が出ています。このことからも、BIツールの導入有無に関わらずデータ集計・分析にExcelは欠かせないツールであることがわかります。
(出典:キーマンズネット「BI導入済みだが、結局Excel一強」という現実 圧倒的使用率の要因は?:データ活用とBIツールの利用状況/後編 - キーマンズネット)
一方、Excelでデータ集計・分析する際、下記の課題に直面したことがある方も多いのではないでしょうか?
- 自部署ではプロモーション施策の測定結果しか分析に使えない
- 社内のマーケティングデータが複数のデータベースに分かれており、集計する度にシステムチームへの依頼が必要
- 数字は比較的短時間で出せるが、会議での報告用にグラフ化するなど見せ方に苦戦している
- 毎月月初にレポートを作るのが手間
- レポート作成を自動化したいが、SQLやRPAの知識がなく毎回手作業になっている
BIツールは、データ管理の観点やスキル面でマーケティング担当者がExcelだけでは完結するのが難しい、社内に拡散したデータの統合・可視化・自動化が強みです。
例えば、各プロモーション施策の結果の集計はExcelで、経年変化を見たり定期的にレポーティングするものはBIツールを使う、というように、併用することでデータをより効率的にマーケティングに活かすことができるのです。
BIツールとは
BIツールとは、「ビジネス・インテリジェンス・ツール」の略で、企業が日々蓄積されていく膨大なデータを分析し、その分析結果を経営意思決定に活用するためのツールの総称です。社内の部署ごとに管理が異なる膨大なデータを収集し、わかりやすいグラフや表で可視化できる点が特徴のひとつです。
近年ビッグデータを活用する企業の増加に比例して、BIツールを導入する企業も増えています。
例えば、BIツールのひとつであるTableauは、マーケティングにおいてデータの視覚化を助け、効果的な分析や意思決定を支援するツールとして、多くの企業で導入されています。
マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングがGoogleトレンドを使って実施した調査によると、2024年に検索数が多いBIツールは以下の通りです。
▼BIツール一覧(2024年Googleトレンドより/日本国内対象)
検索数 | BIツール名 | 特徴 |
|
Tableau | データの可視化機能の高く、洗練されたダッシュボードと強力なデータ分析機能が特徴。オンプレミスとクラウドの双方に対応しているので、柔軟に運用することが可能。2019年6月のsalesforce社の買収によって注目が集まり、現在も多くの企業が導入している。 |
2 | DOMO | データの接続や保存/管理、加工、可視化/分析、共有など、データドリブン経営を実現する機能をオールインワンで提供していることが特徴。直感的な操作感で中小企業を中心に2010年頃から導入が進む。 |
3 | Power BI | MicrosoftがリリースしたBIツール。2014年にMicrosoft365に搭載され、Microsoft製品との親和性が高いことや、その他多様なデータソースへの接続も可能なため、年々シェアを伸ばしている。 |
4 | Looker Studio | Googleが提供する無料のデータ可視化ツールで、Google AnalyticsなどのGoogleプロダクトとの親和性が強み。比較的初心者向けでデータに不慣れなユーザーにも使いやすいのが特徴。 |
5 | Looker | Looker Studioと比べて、より高度なデータ分析とカスタマイズ性に優れたBIツール。カスタムクエリ言語「LookML」を使用して、高度なデータモデリングと洞察を提供。 |
(参考:クロス・マーケティング 2024年最新動向!世界で人気のBIツールは?Googleトレンドから比較)
上記はBIツールの一例ですが、ツールによって強みや使用感、価格にも大きく違いがあります。自社の課題感やどのように使いたいかに合わせて適切に選択することが肝要です。次の章から、多くのBIツールに搭載されている機能について詳しく説明していきます。
BIツールの基本的な機能
BIツールは大きく、データ分析機能、レポート機能、ダッシュボード機能に分けられます。それぞれの機能について詳しく見ていきましょう。
データ分析機能
BIツールでは、基幹となるデータベースと連携することで、誰でも簡単にデータ分析ができます。基幹データベースとの連携作業には専門的な知識が必要なケースもありますが、分析は専門的な知識がなくても簡単に操作できます。
収集されているデータを可視化する場合には、基本的にドラッグ&ドロップなどの操作で出力したいデータ項目を選択し、分析したい切り口を指示すると自動でデータを集計・分析してくれます。
レポート機能
BIツールでは一般的にレポートを出力する機能が備わっています。定型レポートや非定型レポート、OLAPレポートの出力に対応しているものが多く、出力形式もPDF、Excel、CSVなどいくつかの種類から選択できます。
また、レポートの表示形式を自社の帳票や資料に合わせてカスタマイズできる場合もあるため、出力したレポートデータを手動で自社テンプレートに修正するなどの手間もかかりません。
ダッシュボード機能
分析したデータをグラフや表などわかりやすい形式に視覚化できるのがダッシュボード機能です。あらかじめどのような形で視覚化するかを設計していれば、誰でも最新のデータをダッシュボード上で閲覧することが可能となるため、必要なタイミングで素早く現状を把握できるようになります。
また、クラウドやモバイルアプリなどが連携されているBIツールの場合、外出先やスマートフォンからもダッシュボードを閲覧できるため、場所や時間を問わずに自社の現状をデータで確認できます。
BIツールを導入するメリット
多くの企業がBIツールを提供しているため、ツールごとに得意とする範囲は異なりますが、いずれのツールにも共通したメリットがあります。詳しく見ていきましょう。
社内外に存在する複数のデータを集約し、分析できる
企業の中には、部署ごとに異なるデータベースを用いて顧客データや売上データ、営業データなどを管理しているケースがあります。部署ごとに異なるデータをもとに業務をおこなっていると、マーケティング部署と営業部署の連携が円滑にできず、販促活動が非効率になってしまうなどのリスクが発生します。
このような場合にBIツールを用いれば、社内外に分散していた複数のデータを一元管理することができます。そのため、これまで不可能だった部署ごとのデータを統合的に分析し、最適な営業活動・販促活動が実現できます。
レポート作成にかかるコストを削減できる
BIツールはデータベースをもとにレポート作成を自動化できるため、これまで専門部署が時間をかけて対応していたレポート作業が効率化できます。例えば、これまで手動で対応していた月次レポートを自動化できれば、空いた時間で新しいマーケティング戦略を検討するなどの余裕が生まれるかもしれません。
課題の早期発見が可能になる
データの集計や分析作業がリアルタイムで実施されることで、経営会議や販促会議で最新のデータを参照できるようになります。仮に、これまでの経営会議ではレポート作業が手動だったために、2ヶ月前の売上データを用いて経営戦略を決定していた場合、リアルタイムでレポートが集計されるようになったことで、前月分の売上データを用いた議論が可能になります。結果として、より現状に即した情報で戦略を検討できるため、課題の早期発見・解決が可能となるのです。
全社的に情報共有・認識統一が推進される
BIツールで各部署のデータを集約し、ダッシュボードを用いて視覚化すると、全社で同じデータを共有できます。それにより、部署ごとに閲覧するデータが異なることによる認識の齟齬が解消され、認識の統一が推進されます。
見ているデータや情報が共有されれば、自社の課題がどこにあるか、売上目標に対する現状が明確になり、部署間での連携が取りやすくなるのもメリットです。
BIツールが活用されるシーン
BIツールは経営層やマーケティング部署など一部の限られた部門でしか活用できないと思われがちですが、全社的に広く活用できるものです。
また、現時点ではデータを用いた業務をおこなっていない部門でも、BIツールを導入すると効率的かつ論理的に企業活動ができるケースもあります。各部門での活用イメージを一例として紹介します。
部門 | |
経営部門 | 経営分析、財務分析、予実管理など |
営業部門 | 売上分析、営業分析など |
マーケティング部門 | 顧客分析、売上経路分析、エリア分析など |
バックオフィス部門 | 帳票管理・作成など |
人事部門 | 人事データ分析、勤務状況の分析など |
インサイドセールス部門 | 顧客行動分析、問い合わせ分析など |
BIツールの導入事例
実際に、弊社がBIツールTableau導入のご支援をおこなった事例を2つ紹介します。
【事例1】月次実績帳票の代わりとなるダッシュボードの設計
① 導入の経緯、目的、課題
クライアントA社のマーケティング部では毎月の実績をエクセルで集計し、パワーポイントでレポートをとりまとめていましたが、世の中のトレンドが目まぐるしく変化していく中で、月次ペースの確認では次第に対応が追いつかず、対応が後手になってきていることが課題になっていました。
しかし、同じやり方で週次・日次で手作業の帳票更新を行うことは現実的ではなく、スピーディかつ適切なマーケティングの意思決定をするために、BIツールのひとつである「Tableau」を導入することになりました。
Tableau商品紹介はこちら
② ダッシュボード設計・構築時に意識したこと
弊社では、今までの月次実績帳票の代わりとなるダッシュボードの設計と作成をサポートしました。
「Tableau」は、ダッシュボード上で集計期間や商品の絞り込み等を探索的に行えるため、その機能を活かした実装を行いました。
また、グラフ表現等の視覚化など、誰が見てもわかりやすいデザインを意識し設計・構築しました。
③ 導入の結果、実現できたこと
A社マーケティング部では、いつでも最新のデータで実績を参照できるようになっただけでなく、各担当者が必要に応じて実績の深堀を行えるようになりました。
その便利さから、当初はマーケティング部だけだったユーザーが経営企画部や営業部へと徐々に広がり、今では導入当初に比べて社内利用者数が約10倍にまで拡大しています。
(Tableauダッシュボードイメージ画像)
【事例2】マーケティング課題解決のためのBIダッシュボード活用支援
①当初の課題
まず、クライアントであるBtoC企業のマーケティング担当者の方は、新規顧客に継続してもらうための施策を考える前に、そもそも自社の顧客にどのような特徴があるかわからず、何から手をつけるのがよいのか悩んでいました。そのため、まずは顧客全体の実績とともに、顧客区分ごとでどのような商品が売れており、購買の特徴があるのかを確認したいとの要望を伺いました。
② ダッシュボードの設計内容
そこで、下記のようなダッシュボードを設計し、顧客データを可視化することにしました。
※記事掲載向けに架空データを用いています
ダッシュボードの構成は、以下のようにしました。
- 顧客全体の売上実績(左上)
- アイテム売上ランキング(右上)
- 顧客区分別構成比(左下)
- 商品カテゴリー(サブカテゴリー)別構成比(右下)
③ BIダッシュボード導入の効果
左下の顧客区分をひとつ選択すると、左上・右上・右下のグラフと表も、その顧客区分の実績に切り替わり、客層別の売上実績をより具体的に知り、顧客区分ごとの特徴をみることができます。
例えば、新規顧客の顧客全体に占める売上比率や、新規顧客に売れている商品を確認できます。
他の顧客区分とも比較できるので、顧客区分別に売れている商品の違いを確認し、新規顧客向けのスターター商品セットを作るなど、マーケティング活動に役立てることができます。
これにより、クライアントは自社の顧客の特徴を把握し、自社データをマーケティング施策の改善に活かすことができるようになりました。
この効果をきっかけに、店舗間の売上の差が広がっており、好調な店舗と不調な店舗の二極化が進んでいました。この対策を練るために、好調な店舗と不調な店舗の違いを一覧で見られるようにしたい、との追加ご要望を頂きました。具体的には、店舗別の実績から売上の高い店舗の実績と特徴を知り、他の店舗に活かせる情報が欲しいとのことだったので、下記のようなダッシュボードを設計しました。
※記事掲載向けに架空データを用いています
このダッシュボードでは、店舗別の月間の売上実績を商品カテゴリー別に表示させ、売上の高い店舗ではどのカテゴリーが一番売れているのか、全体の実績との違いはあるかを確認することができます。
例では、売上トップの店舗Nでは全体と同じくカテゴリーLの商品が一番売れていますが、全体ではカテゴリーLとカテゴリーBで全体の50%を占めているのに対し、店舗Nでは売上の半数近くをカテゴリーLの商品で占めていることが分かります。
このダッシュボードを用意したことにより、売上の高い店舗の特徴をデータで確認し、特徴に現れている店頭での活動を他の店舗へ展開させることで、他店舗での売上向上に役立てられるようになりました。
BIツールの導入やマーケティングへの活用支援ならフュージョン株式会社にお任せください
データを分析し意思決定に活用する場面において、BIツールを使うメリットと、実際にBIツールを導入した企業事例をご紹介しました。
フュージョンでは、さまざまな業種のクライアント企業のマーケティング活動支援のため、BIツールの導入・設計・運用改善提案を行っています。
また、自社にTableauのダッシュボードの設計環境がありますので、お預かりしたデータを弊社のセキュアな環境で分析し、結果のダッシュボードをweb上に表示させることも可能です。
自社のデータをもっと活用したい、わかりやすくしたい等、データの可視化についてご要望がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
以下の資料で事例とともにサービスを紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。