自社の提供する製品やサービスについて、「顧客がなぜ購入するのか」を顧客側の視点で考えたことはあるでしょうか?自社製品・サービスの仕様や強み、特徴は詳しく説明できる方が多いと思いますが、その製品・サービスを通じて顧客にどんな価値を提供しているのか言語化するのは難しい場合があります。
今回のコラムでは、CRMに取り組むうえでも役立つ、顧客への提供価値(バリュープロポジション)をデザインするフレームワーク「バリュー・プロポジション・キャンバス」について解説します。
本文中でご紹介する「バリュー・プロポジション・キャンバス」シートは下記リンクよりダウンロードできます。ぜひ「顧客への提供価値」デザインにお役立てください。
バリュープロポジション(Value Proposition)とは、直訳すると
Value=価値
Proposition=提案
ですが、下記図の通り、「顧客が望むもので、自社の製品・サービスで提供でき、競合が提供していない価値」と言えます。
バリュープロポジションがなぜ重要かというと、売る(提供する)側と買う(利用する)側の視点が違うことで往々にして「ニーズのずれ」が起こるからです。売り手である企業が想定しているものとは別の価値を顧客が見出すことは、よく起こります。企業側が良いと思ってリリースしたサービスや機能が顧客には受け入れられなかったり、逆に思ってもいなかったサービスや機能に顧客が価値を感じたりする場合もあります。
ここで、身近な例をひとつ挙げてみましょう。作業服の販売で有名なワークマンですが、本来の顧客である作業員のほかに違う顧客層がいることに気づき、調べてみると、機能性や価格でアウトドアウェアやスポーツウェアとして顧客の支持があることを発見しました。そこで同社は、カラーバリエーションを増やす等カジュアルウェア領域を集中的に拡大し市場を獲得しました。今では「#ワークマン女子」という、当初とは真逆の顧客層向け店舗を出店するまでに拡大しました。
ワークマンの例は特徴的ですが、もっと小さい粒度でも企業と顧客の「ニーズのずれ」は起きているのではないでしょうか。このような問題を解消するために生まれたフレームワークが「バリュー・プロポジション・キャンバス」です。
自社のバリュープロポジションを整理または改善することで、新たな市場の開拓や競合との「価値のある」差別化、製品・サービスの改善につなげることができます。
バリュー・プロポジション・キャンバスのフレームワークは下記の図で情報を整理します。
各情報は、顧客データやステークホルダーへのインタビュー等を通じ収集します。
左側には顧客への提供価値、右側には顧客セグメントについて記入していきます。
ここでは、フュージョン株式会社が第35回全日本DM大賞でグランプリを受賞した、現リクルート様事例
「単語帳」と「鰹節」で労力・コストの削減をアピール 大企業に響いた2つの"スタサプENGLISH"DMの「スタディサプリENGLISH法人サービス」を例にして記入してみます。
■STEP1
最初に①顧客への提供価値 ②顧客セグメントについて記入します。
ここで①どんな価値を提供するのか ②価値提供するのはどんな相手かを洗い出します。
■STEP2
次に右側の顧客セグメントの枠を記入します。
左側の枠(顧客への提供価値)から始めないのは、「製品・サービスありき」の内容になるのを避けるためです。
③顧客が解決したい課題 Customer Jobs (実現したいこと、解決したい課題)
④顧客が望むメリット Gain(あったら嬉しいこと)
⑤顧客の悩み・障害 Pain(あると嫌なこと)
上記のうち最も重要なのは③顧客が解決したい課題(Customer Jobs)です。
記入する時には、以下の3つの側面からアプローチするのがおすすめです。
・機能的な課題:具体的な行動や状況として表現できる側面です。
例)英語ができる社員を増やしたい、会社の福利厚生を充実させたい
・社会的な課題:まわりからの評価やステータスとして表現できる側面です。
例)グローバルな企業としてビジネスを展開したい等
・感情的な課題:ターゲット個人の感情や気分として表現できる側面です。
例)(人事部として)研修成果(学習結果、コストダウン)をアピールしたい等
上記を実際のフレームに記入した例が下記になります。
「解決したい課題」が明確になったら、それにまつわる「ゲイン」(あったら嬉しいこと)と「ペイン」(あると嫌なこと)を埋めていきます。
■STEP3
次に、顧客の課題を解決できる状態となるように、右側の顧客への提供価値を記入していきます。
事実→分析→戦略→提案の順で整理すると、より深みのある提供価値が出せるかもしれません。
⑥製品やサービスProducts & Services
⑦顧客に利得をもたらすものGain Creators (顧客が嬉しいことを増やす)
⑧顧客の悩みや障害を取り除くものPain Relievers(顧客が嫌なことを解消する)
■STEP4
顧客セグメントと製品・サービスの各要素を記入できたらお互いの合致する点を見つけ出します。
⑦と⑧は、顧客の④や⑤に対応している必要がありますが、一つの製品・サービスですべてに対応しなければならないということではありません。顧客のあらゆる悩みに対応する商品を提供するのは不可能です。
そうではなく、④顧客がメリットに感じるものや⑤障害と感じるものと⑦⑧の製品・サービスのソリューションが合致する点を見つけます。これがその顧客に対する提供価値となります。
これでバリュープロボジションキャンバスの完成です。
この中の提供価値を
A)競合との比較優位性
B)顧客への提供価値の強さ
でプロットし、どの提供価値が強み(A)で、どの提供価値を改善すればよいのか(B)を見ることで、顧客のニーズに合った「価値のある」差別化に近づきます。記入した内容は時間の経過や環境の変化にともないズレが生まれていきますので、時代や環境の変化に合わせてアップデートをし続けるのがおすすめです。
今回は、「顧客への提供価値」をデザインするバリュー・プロポジション・キャンバスというフレームワークについて解説しました。
製品やサービスが溢れ、また購買チャネルや情報の取得先が複雑になっている昨今の顧客の購買行動に対し、どうニーズとマッチさせ、適切にメッセージを訴求するかが重要になっています。
このフレームワークは「顧客へのベネフィット」を整理するものなので、CRM戦略や施策の見直しや、カスタマージャーニーマップ作成にも役立てることができます。ぜひ取り組んでみてください。
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