LTVとは「顧客生涯価値(Life Time Value)」のことで、一度獲得した顧客が一生の間にもたらしてくれる価値を指します。LTVの最大化はCRMに取り組む理由そのものと言えますし、また最近では「LTV経営」という言葉が出てきているとおり、LTVを経営目的や指標として使用する傾向が出てきています。
一方でLTVがなぜここまで重要視されているのか分からずなんとなく続けていたり、CRMとの関係性がまだ理解できていなかったりする場合もあるでしょう。
今回は、LTVが重視されるようになった背景やLTVとCRMの関係性を解説します。そのほか簡易計算シートを用いたLTVの簡単な計算方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
LTVとCRMの関係性
LTVはCRMに取り組む目的そのものであり、CRMの取り組みの中で行う顧客とのコミュニケーションシナリオ設計のカギとなる重要指標です。
CRM(Customer Relationship Management )とは、顧客との関係性の維持や顧客満足の向上によって、売上の拡大や利益の向上を目指すための顧客志向の経営戦略のことで、それに伴う手段や手法のことを指します。
CRMにおいてリピートを増やすことは顧客の関係性を向上するために重要であり、LTVはそのリピートを図るための指標です。CRMの目的である顧客との関係性の向上を正しく検証するためには、LTVをきちんと指標として可視化することが重要です。
またLTVを最大化させるためには、適切なコミュニケーション設計を行う必要があります。自社の顧客がどのようなニーズを抱えており、どのような行動特性を持っているかを細かく把握してから、設計を行いましょう。
また顧客のタッチポイントがアナログ・デジタルを問わず複数存在する中では、CRM/MAツールを活用したデータ収集や分析も必要です。
LTVが重視される背景
近年LTVが注目を浴び、各企業で重視されてきています。今まで以上に既存のお客さまを大事にしていこうと考えるようになった理由や、LTVが重視される背景を読み解いていきましょう。
人口減少・年齢構成比の変化
日本の人口のピークは2008年で、2009年からは減少に転じています。そして、政府統計資料によると、2053年には人口1億人を割ると予測されています。
(国立社会保障・人口問題研究所資料より弊社作成)
加えて高度成長期と比較すると、購買力のある若年層の割合が大きく減少し、人口ボーナスによる企業の成長がなかなか見込めない環境になりつつあります。
(国立社会保障・人口問題研究所資料より)
新規獲得のコストが増大
そもそも顧客との接点をつくり購入に至るまでのプロセスは、既存顧客の維持や育成に比べて5倍のコストがかかると言われています(1:5の法則)。
かつては国内での需要が供給量を上回り、何を売ってもそれなりに売れる時代がありました。
しかし、現代の日本では人口減少が急速に進んでおり、市場にも高品質なモノやサービスがあふれています。そのため国内では、少ない顧客を多数の企業が奪い合っている状況にあります。
このように人口減少・少子高齢化を背景に国内市場が縮小する中では、企業が一人の顧客からより多くの利益を上げようと考えるのは、自然な流れです。上位2割の顧客で全売上の8割を支えているとも言われるとおり(パレートの法則)、いかに既存顧客と良好な関係を築くかが売上維持・向上を左右するのです。LTVで既存顧客との関係性を可視化できるため、売上維持や向上をするために注目が集まっています。
LTV分析では、売上だけでなく費用も算出する必要がある
LTVの最大化を考えるときは「生涯に顧客から獲得する売上」ではなく「生涯に顧客から獲得する利益」に着目することが重要です。すなわち売上を算出するだけでなく、かかる費用も算出する必要があります。顧客を獲得するのも維持するのも、直接・間接に関わらず費用がかかります。
直接かかる費用として分かりやすいのは、広告費やプロモーション費です。また間接的にかかる費用としては、顧客を管理するためのシステムに関わる費用などが挙げられます。
直接・間接関わらず費用を確認してみると、顧客を獲得し維持し続けるためには多くの費用が発生します。この費用を無視し、売上だけで判断すると誤った判断をしてしまう可能性もあるため注意しましょう。そしてかかる費用は、顧客一人ひとりで異なりますし、毎回の取引でも異なります。
たとえば、ある商材の新規顧客を獲得するために、10,000円分の広告枠を2回購入したとします。
1回目の出稿では100人、2回目の出稿では初回の半分の50人獲得できました。その場合、1回目の出稿で獲得できた新規顧客の獲得費用は100円、2回目は200円となり獲得費用は異なります。
さらに1回目は500円引きの特典を、2回目は定価で販売したとしましょう。値引き分を費用と考えれば、1回目に獲得した顧客一人ずつに500円の費用が加算されるのです。
かかる費用を計算すると、1回目の方が獲得できた人数が多いのにも関わらず、一人あたりの獲得費用が発生しておりコストが高くついていることが分かります。
このようにLTVを正しく把握するためには、顧客ごとで必要となる費用が一律ではないことを理解し、顧客一人ひとりの、さらに一回ごとの取引を管理する必要があります。
そのためには、取引を記録するためのCRMと販売管理が必要であり、加えて会計管理の仕組みの連携が重要です。また正確な費用を把握するためには、販売管理費の仕分けもしなければなりません。
そういう意味では、LTVを経営に取り入れることができる企業とできない企業があります。継続的に購入されている一般消費財を販売している企業でも、販売チャネルが小売経由であれば、個々の取引の記録がなくLTVを算出することはできません。
D2C企業からLTV経営の話題が出ることが多いのは、そもそも継続利用を前提としている商材を扱っていることが多く継続利用を前提にLTVを最大化するビジネスモデルであり、情報を把握しやすい仕組みをもっているからです。
簡易計算シートを用いたLTVの計算方法例とアクションプラン策定
最後に、LTVを自社で計算するときの簡単な計算例をご紹介します。
LTVの定義は「顧客が一生の間に生み出してくれる価値」です。ただし「一生」は、実務では長すぎて扱いづらいため、商材の性質を踏まえ数年程度など期間を区切って算出するのが一般的です。
LTVでは、二度目以降の購買も顧客のもたらした「価値」として評価します。また、顧客が定着することによる顧客獲得コスト低減も「価値」なため、LTVの一要素として扱う場合もあります。
前述したとおりLTVの正確な把握のためには、売上だけでなく費用も算出する必要があります。
たとえば、あるECサイトでは、以下の状態だったとします。
- 年間の新規顧客獲得数:2万人
- 顧客の1回注文あたりの購買単価:8000円/年間購入回数は平均3.2回
- コストとしては、主に販促費(広告費や各プロモーションの運用費、オファー費用)を計上。獲得コストは1件3万円。
この条件をLTVの簡易計算シートに当てはめてみましょう。
まず顧客数を埋めていきます。新規顧客獲得数は2万人のため、1年目に20,000と入力します。顧客維持率(B)は、新規顧客の2年目以降の継続率(もしくは離脱率)です。自社で経過年ごとに計測していればその数字を入力しましょう。もし経年ごとの計測がなければ、平均の継続率(もしくは離脱率)を入力します。
続いて、売上の入力です。今回は1回あたりの購買単価は8,000円、年間購買回数は3.2回と入力します。購買単価を継続年ごとに計測していない場合は、顧客の平均購買単価を記入しても問題ありません。もし定期商材で経年で割引などが発生する場合は、販売価格を反映させましょう。
最後にコストを入力します。正確には、人件費やツールの利用料なども含みますが、今回は簡易計算のため、販促費として発生した30,000円を入力します。
または、1年目を顧客獲得にかかった総額を示すCAC(Custmer Acquisition Cost)、2年目以降を維持コストとして商品を購入してもらうためにかかった費用であるCPO(Cost Per Order)を入力しても問題ありません。
この表では以下の計算式でそれぞれの金額を割り出しています。1年目の列の数字を当てはめてみてみましょう。
・年間売上:新規顧客数(A)×1回注文あたりの購買単価(D)×年間購買数(E)
20,000人×8,000円×3.2回=5億1,200万円
・コスト:新規顧客数または既存顧客数(A)×1件あたりの獲得・維持コスト(G)
20,000人×30,000円=6億円
・利益:売上-コスト
5億1200万円-6億円=-8,800万円
・LTV:累計利益÷初年度獲得顧客数
-8,800万円÷20,000人=‐4,400円
上記の式は表に入れさえすれば、自動で反映されます。
2年目以降も全て入力して結果を確認すると、1年目で2万人獲得できた新規顧客は、5年後には1,680人だけしか残らないことが分かります。
さらに1年目は売上に対してコストのウエイトが大きく、LTVはマイナスでしたが、2年目以降は黒字に転換しています。
つまりこの結果を全体的に見ると、初年度で離脱してしまうと利益がマイナスになるため、少なくとも2年は継続してもらえるようなマーケティング施策の設計が必要だということが分かります。
LTVが可視化できたら、数字がどのように変われば全体の数字が目標に近くなるか確認していきましょう。そこからゴールを設定し改善したい項目を決め、アクションに落とし込んでいきます。
このように、LTVは可視化しなければCRMに活かすこともできません。まずは概算でも自社の商品・サービスのLTVを算出してみると、自社のCRMに関する現状把握の第一歩となるでしょう。
今回活用した「LTVの簡易計算シート(Excel)」は以下よりダウンロード可能です。ぜひ現状把握にご活用ください。
LTV計算をしてみてもどのようにCRMへ活かせばよいか分からない方は「CRM診断サービス」をご活用ください。
CRM診断サービスは、CRMの目的の整理から始まり、CRMの取り組みの現状を可視化できます。さらに実施している施策の成果の振り返り、改善ポイントの見直しまで、企業のCRM取り組み全体の棚卸しが可能です。
診断項目には「LTV分析」も含まれているため、LTVを把握してCRMの取り組みを強化したいとお考えの方は、ぜひ以下より資料をご確認ください。
LTVを正しく把握して、最大化に向けたアクションを
既存顧客と良好な関係を築くかが売上維持・向上に左右する昨今、CRMの指標となるLTVをしっかり計算する必要があります。
実際の指標を把握した上でCRMに活かしていきましょう。
またLTVを正しく把握するためには、顧客一人ひとりを“個”客として扱う必要があります。そのためには、自社ビジネス全体の正しい理解と、その理解に基づいた仕組みの設計・開発、運用が重要という点も忘れてはいけません。
フュージョン株式会社では、30年以上にわたり、さまざまなクライアントのCRMについて、定量・定性分析による現状把握から戦略策定、マーケティング施策の設計や運用まで、統合的に支援してきました。
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