マーケティング界隈でよく目にする言葉のひとつに「インサイト」があります。インサイトは、消費者が無意識の中で商品を選ぶときの決め手としているものの一つで、マーケティングに活用することで、商品開発や販売促進に役立ちます。
今回のコラムではインサイトの概要や、インサイトを導き出すときの代表的な手法を解説します。
なお、インサイトにはリサーチ領域で使用するインサイトもあり、マーケティング・コミュニケーション領域とは若干異なった意味合いで使用されています。今回のコラムでは、マーケティング・コミュニケーション領域で使用されるインサイトを取り上げています。
インサイトとは
インサイトは英語の「insight(in-sight:中を見る)」が語源で、直訳すると「洞察」「直感」「発見」「物事の本質を見抜く力」のような意味があります。
マーケティング領域で使用する場合は「消費者の頭や心の内面に潜んではいるものの、可視化や言語化が消費者本人もできておらず、ブランドや商品を買う理由やきっかけになりそうな何か」を指します。いわばインサイトは、ブランドや商品と消費者を結びつける無意識下の絆とも言えるでしょう。
似たような言葉に「ニーズ」があります。ニーズは「需要」「欲求」のような意味がありますが、潜在化されているためインサイトとは異なります。
また、顕在化していないという意味では潜在ニーズと混同されることもありますが、インサイトはニーズにすらなっていない段階のため潜在ニーズとも異なります。
潜在・顕在を問わず、自社が扱う商品へのニーズがあったとしても、消費者が必ずしも自社の商品を選んでくれるわけではありません。消費者が商品を選択する時に自社商品を選ぶきっかけの「何か」が必要です。
この「何か」の正体そのものがインサイトであり、インサイトを調べ理解し可視化することをインサイト開発と言います。
インサイトのマーケティングでの活用例
インサイトをビジネスやマーケティングに取り入れた事例は多くあります。
ある定食チェーンでは、女性客の開拓を課題としていました。そこで女性をターゲットにするべく、野菜を多めにするなど女性向けのメニュー開発を実施し、同時に女性向けのTVCMや販促プロモーションを行いました。ただし、目に見える成果を上げることができません。
そこで対象となる女性のインサイト開発を実施したところ、現状の店舗では女性は「一人で来店するのが恥ずかしい」というインサイトを得ました。インサイト開発を元に、地下や2階以上という多少立地は悪くても周囲の目が気にならない、女性一人で来店しやすい場所に出店し女性客の獲得に成功したそうです。
このようにインサイト開発を行うと、商品開発や販売促進に役立ち効率的にマーケティング活動ができます。
出典:マネーポストWEB「大戸屋が愛される理由 野菜メニュー豊富で女性客を意識」
インサイトを得ることの重要性
インサイトを得ることは、CRMを実施している企業にとって特に重要です。
企業は、自社のブランドや商品、あるいは企業そのものにロイヤルティを感じてもらうために、消費者に対してさまざまな施策を実施します。それらの施策の根底にある3つの価値提供の一つである心理的価値の提供を強化することで、ロイヤルティが生まれ、育っていきます。
消費者がブランドや商品と長期間な関係性を保つためには、無意識下で、かつ理由は一般的な言葉でしか説明できないにしても、言葉では表せないほど大好きという感情を持ち続けてもらうことがゴールです。そのためには、顧客理解を深め、インサイトを得る取り組みは欠かせません。顧客のインサイトを活用してマーケティング戦略を立案することで、顧客ロイヤルティはさらに高められるでしょう。
CRMや顧客ロイヤルティについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
インサイトを得るための代表的な調査手法
無意識の中にある消費者のインサイトを知るためには、定量的・定性的の両方の側面から調査することが有効です。ここでは仮説検証のための定量調査と定性調査について紹介します。
仮説検証のための定量調査
定量調査は、仮説を数値で検証したいときに有効な調査手法です。
一般的な定量調査は標本調査で実施するため、収集した数値が統計的に意味を持つ数字になるように事前に設計する必要があります。
定量調査の方法として、ひと昔前は街頭調査やCLT(Central Location Test)、郵送やFAXを活用した調査が主流でした。しかし現在ではインターネット調査が主流です。アンケート調査やWebサイトのアクセス履歴などの数値を見て調査します。
仮説構築のための定性調査
定性調査は数値では表しきれない物事を検証し、仮説を構築するときに有効な調査手法です。たとえば消費者の発言や日常行動、態度のような数値化できないものの調査が該当します。
特に、インサイトを知るためには定性調査が鍵になります。
定性調査は対面のインタビュー形式や観察で行うことが多く、主な調査手法としてフォーカスグループインタビュー(FGI)、デプスインタビュー(DI)、エスノグラフィック調査(行動観察調査)などがよく知られています。
正しくインサイトを導くための定量・定性調査の使い分け方法
インサイトを正しく導き出すにあたり、消費者の隠れた何かを探るのであれば定量調査よりも定性調査が有効です。
ただし定性調査だけ実施すればそれで良いかというと、そうとも限りません。定量調査も併用することで、強固な仮説とすることができます。
定性調査では、回答者の「本音」と「建前」に注意が必要です。インタビューにおいて、回答者がきちんと本音で語ってくれない可能性もあるでしょう。実際にインタビューをリードするファシリテーターが回答を深掘りし、矛盾点がないかを確認する必要があります。
「本音」と「建前」を見抜くには、定量調査を使用すると効果的です。定量調査の数値によってインタビューで得た仮説を裏付けることができるためです。
一方で、定量調査は「事実」であって「真実」ではないということも気に留める必要があります。定量調査から得られる数値の結果は一つだけです。一方で真実はこの事象に対して複数あります。
複数の人が数値を見て分析すると異なる考えを持つことがあるため、複数の考えと定性調査での仮説を組み合わせ、使い分けしながらインサイトを導く必要があります。
インサイトを理解して、マーケティングに活用しよう
普段何気なく使っているインサイトという言葉は、マーケティング戦略立案時の仮説構築時に使用されることが多く、重要なものです。そのため、マーケターはインサイトの意味を正しく理解しておく必要があります。
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