「ポイ活」という言葉がメディアに取り上げられ、ポイントを貯める、使うということが一般化し、日常生活のなかで無意識の行動様式として浸透しています。
2024年8月29日、矢野経済研究所が発表した「2024年版 ポイントサービス・ポイントカード市場の動向と展望」によると、2023年度の日本国内のポイントサービス市場規模(ポイント発行額ベース)は2兆6,569億円で、今後年率4~5%の成長と予測されています。
参考:矢野経済研究所「2024年版 ポイントサービス・ポイントカード市場の動向と展望」
2024年7月、フュージョンは株式会社ネオマーケティングと共同で、ポイントプログラムの設計・導入後運用に関する課題と実態をテーマに調査を実施しました。
この調査では、ポイントプログラムに参加している全国の20歳以上69歳以下の男女1,000名を対象に、最近の消費者がどのようなポイントプログラムに参加しているか、参加する心理や行動を中心に調査しました。調査の結果、90%以上の消費者が一つ、もしくは複数のポイントプログラムに参加していると回答しました。
そこで今回のコラムでは、調査結果の中でもポイントプログラムの運営主体を軸に、運営側である企業がポイントプログラムで提供している価値と、ポイントプログラムに参加している消費者が何を求めているかについて、どのような傾向がみられるのかを解説します。
そもそも、ポイントプログラムを成功させるために重要なことは何でしょうか。
ポイントプログラムを運営する企業は、ポイントプログラムを通じて消費者にとってどのような価値を提供するのか、プログラムに対しどのような思いを持ってほしいのかが重要です。ここで言う提供すべき価値は、大きく分けて3つあります。
その3つの価値とは「金銭的価値」「利便的価値」「心理的価値」です。
わかりやすく言えば消費者がお得と感じる価値、便利と感じる価値、満足感を満たす価値と言ってもいいでしょう。
そして、消費者との関係性をより強力で長いものにするためには、できるだけユニークなポイントプログラムにすることが必要です。それは、ロイヤルティプログラムの前提となる金銭的価値をベースにした上で、加えて利便的価値や心理的価値をどのように提供するかによって独自性が変わってきます。一番大事なのは、消費者が本当に必要としている価値を何なのかを知り、その価値を提供することです。
今回の調査では、消費者が必要としている価値を知るためのヒントが含まれていました。
消費者がポイントプログラムに期待する価値はどのようなものか、実際の調査結果を用いながら見てみましょう。
「ポイントをためている主な理由」について、最も選ばれたのは金銭的価値である「購入金額に応じたポイントが貯まるため」との回答でした。
オンライン上のポイントサービスであるクレジットカードのポイント(アプリ含む)では72.4%、オンラインショッピングサイトのポイントでは70.7%といずれも70%強を占めています。小売店のポイントプログラムでも64.1%がこの回答を選んでいます。飲食店のポイントカード(アプリ含む)とサービス業のポイント(美容院、フィットネスなど)は、同じく金銭的価値である「特典や割引が受けられるため」が最多を占めていました(飲食店:70.8%、サービス業:65.4%)。
また「特典や割引が受けられるため」はオンライン上のポイントサービスでは50%を超えており、飲食店のポイントカードにおいては70%を越えています。
「特定の商品やサービスが割引になるため」は、クレジットカードのポイントでは11%程度、オンラインショッピングサイトのポイントでは17%程度に対し、飲食店のポイントカードでは21%以上と、やや差がみられます。
サービスや割引の提供が広範で、かつまんべんなく行われる傾向があるポイントサービスと、新製品の発売や季節のイベントなど、その時々で企業が押したい特定の商品やサービスをオファーに加えやすいポイントサービスで、このような差が出ていると考えられます。
次に利便的価値についても見てみます。「自分向けの情報を提供してもらえるから」についてポイント種別で確認すると、どのポイントサービスでも回答割合がひとケタで、大きな差が発生していないように見えます。
ただ、ポイントサービスごとに性年代別で確認すると、ものによっては回答割合が高く出る結果となりました。例えば以下は、小売店のポイントについて男性に絞った場合の結果です。男性20代は16.7%と他の年代に比べて10%程度差が出ています。
サービス業のポイントについても、回答母数n=65と少ないものの、男性40代で33.3%の割合が「自分向けの情報を提供してもらえるから」を選んでいます。
同じ選択肢について女性で確認したところ、男性に比べ回答割合は少ない傾向が出ていました。飲食店のポイントが女性の場合の最多で、60代が12.5%を占める程度でした。
仮説としては、男性のほうが購買体験に効率の良さや合理性を求めていることや、顧客として特別扱いされるのを好む傾向があることなどが挙げられます。
最後は心理的価値の側面です。「提供している企業が好きだから」「体験型イベントに参加するため」のいずれも、ポイント種別での回答率を確認すると、飲食店のポイントサービスとサービス業のポイントサービスのほうが、他のポイント種別に比べて回答割合が高く出ています。
これらのポイントサービスでは、自社でしか提供できないサービスや体験が作りやすく、そこからブランドへの愛着を得られるため、他のポイントサービスに比べて高い割合となったと考えられます。
他の調査結果については、お役立ち資料内で解説しています。詳細について知りたい方は資料をご覧ください。
今回の調査では、消費者に対して「何があれば新しいポイントサービスに参加したいと思うか? 」とも質問しました。回答結果は以下のグラフのとおりです。
ポイントプログラムの基本となる金銭的価値「ポイントが貯まりやすいなら参加したい」が(63.1%)最多ですが、ほかに利便的価値である「ポイントの有効期限が長く、自由度が高いなら参加したい」(40.9%)「コストがかからないなら参加したい」(40.8%)なども上位にランクインしています。
一方、心理的価値について、「好感度が高いなら参加したい」は 11.9%、「買い物の体験が楽しいなら参加したい」は 10.6%と、全体回答結果を見るとそれほど重視していないように見えます。
ただしポイント種別で見てみると、重視する割合が異なっている項目がありました。例えば、前述の選択肢「好感度が高いなら参加したい」に着目すると、クレジットカードのポイントでは10.9%であるのに対し、サービス業のポイントでは25.7%と14.8%の差がありした。金銭的価値や利便的価値に比べ、心理的価値の提供には企業ごとに独自性を持たせる余地があるため、他社との差別化要素として機能する価値と考えられるのではないでしょうか。
これらの調査結果から見えるポイントプログラムの設計・改善に必要なことについて、消費者サイドと企業サイドの両面から整理しましょう。
まず消費者側から見た場合、ポイントプログラムに参加している消費者は、やはり金銭的価値の獲得が一番の参加理由であり、これは直接に感じることができる、わかりやすい価値として重要だと言えます。金銭的価値や利便的価値に比べると、心理的価値の重要度は下がる傾向にありますが、業種や性年代で違いが出る場合があることも考慮する必要があります。
次に企業側から見ると、長期的に企業と消費者の関係を構築しロイヤルティを高めるうえで本来必要な心理的価値を、ポイントプログラムで積極的に提供していないケースが多いようです。また、提供していたとしても、その価値を消費者に向けて効果的に告知することが少ない可能性があります。
心理的価値は金銭的価値や利便的価値とは異なり、短期的な効果を期待するものではなく、むしろ長期的な取り組みが求められるため、ロイヤルティの計測が難しいという課題もあります。これにより、投資対効果が明確でないと判断されやすく、費用対効果がわかりやすい金銭的価値や利便的価値の向上が優先され、心理的価値の提供は後回しになる傾向にあると考えられます。
もちろん、金銭的価値や利便的価値を提供することは、企業・消費者双方にとって重要です。しかし、これらの価値は差別化が難しく、どの企業でも似通った施策を提供しやすいものです。そのため、差別化されたポイントプログラムを実現するためには、かえって多くの投資が必要になることもあります。
一方で、消費者からの共感を得て他社と差別化するためには、心理的価値の提供が不可欠です。自社の製品やサービスにとどまらず、企業が掲げるミッションやビジョン、さらにはSDGsと結びつけることで、消費者の共感を得やすくなり、消費者との長期的な関係構築も期待できます。
今後のポイントプログラムの将来像としては、他社と差別化可能な心理的価値の提供を、いかにしてプログラムに組み込み、積極的に消費者に提供していけるかが鍵を握ります。これが実現すれば、他社との差別化が図られるだけでなく、心理的な結びつきによって、金銭的価値や利便的価値の提供だけでは実現しにくい独自性の高いポイントプログラムの設計が可能となるでしょう。
この記事では、実際の調査結果を解説しながら、ポイントプログラムが提供すべき3つの価値がどのように捉えられているか、そして調査結果を踏まえたポイントプログラムの将来像まで解説しました。今回のコラムで引用している調査結果の資料は、下記のボタンからダウンロードできます。ぜひご活用ください。
ポイントプログラムは単に短期的なキャンペーン的な施策で考えるのではく、中長期にわたる顧客戦略の一部ととらえ、さらに顧客視点と企業視点の両面から設計することが重要です。
フュージョン株式会社では、CRMコンサルティングサービスの一環として、ロイヤルティプログラムの導入や見直しを支援しています。特にポイントプログラムについては、戦略設計からコミュニケーション設計、施策の開発・クリエイティブの制作、さらにツールの導入や運用サポートまで、包括的にサポートいたします。貴社のニーズに合わせ、ポイントプログラム全般にわたる伴走支援が可能です。
既存のポイントプログラムの見直しや新規導入をご検討中の担当者様、または現在運用しているポイントプログラムの課題や改善点を見つけたい方など、どのようなご相談でも承ります。お気軽に、下記フォームよりお問い合わせください。