ロイヤルティプログラムを導入する際には、当然ながら「カスタマー・ファースト」、つまり顧客視点での検討が重要です。
しかし、時には顧客に寄り添いすぎた結果、過剰なサービスや特典を提供してしまうことがあります。単発の施策であれば費用も許容範囲内かもしれませんが、これが恒常的な施策として続けられている場合、「費用対効果はどうなのだろう?」と疑問に感じることも少なくありません。
ロイヤルティプログラムは、一度始めると止めることが難しいため、企業にとっては永続的な取り組みとなります。そのため、顧客に喜んでもらうだけでなく、企業目線での費用や運営体制が持続可能か、目的やゴールが明確に定められているかを確認することが大切です。
そこで今回のコラムでは、ロイヤルティプログラムを検討する際の目的やゴールを定めるために、どのような視点を持つべきか、そしてその出発点となるプログラムの「型」について説明します。
なお、ロイヤルティプログラムの基本的な内容については、別記事「ロイヤルティプログラムとは?他社事例から学ぶ3つの指標と実践方法」で解説していますので、あわせてご一読ください。
前段で説明したように、「型」とは、ロイヤルティプログラムの性格を決定づけるものであり、その目的やゴールに直結するものです。つまり、顧客に提供するロイヤルティプログラムの設計図を作成する前に考えるべき理念や判断基準とも言えます。
この「型」には大きく分けて「レベニュー型」と「エモーショナル型」の2つが存在します。そして、それぞれの「型」はさらに細分化されます。
ロイヤルティプログラムの種類 | 型名 | おもな特徴 | 利点 | 欠点 |
レベニュー型 | 単層型 | すべての顧客を同じように扱い、シンプルなロイヤルティプログラムを提供 | 参加が簡単で広く利用されやすい | 特別感が少なく、ロイヤルティ向上の効果が限定的 |
複層型 | 顧客を複数のグループに分け、それぞれ異なる特典を提供 | 顧客に上位グループを目指させる動機を提供し、長期利用を促進 | 運用が複雑で、基準の設定が難しい場合がある | |
コングロマリット型 | グループ企業が共同で運営し、グループ全体で顧客の囲い込みを図るロイヤルティプログラム | グループ全体で広範囲な顧客基盤を囲い込むことができる | 特定の企業へのロイヤルティ強化が難しく、個別のブランド価値が薄れる場合がある | |
アライアンス型 | 異業種企業が共同で運営する共通ポイントプログラム | 参加企業が多くなるほど利用機会が広がり、顧客が参加しやすい | 特定企業との関係性が弱く、ロイヤルティが低下する可能性がある | |
エモーショナル型 | パーパス賛同型 | 企業のビジョンや目的に共感する顧客に特典を提供 | 企業の価値観に共感する顧客との長期的な関係を築きやすい | 企業のビジョンが顧客に浸透しなければ効果が薄くなる可能性がある |
社会価値共創型 | 企業と顧客が共同で社会問題の解決に取り組むプログラム | 社会貢献を通じて顧客が自己実現の満足感を得られ、企業へのロイヤルティが向上 | 社会貢献に興味のない顧客には効果が薄い、または参加を促しにくい場合がある |
まず「レベニュー型」について説明しましょう。この「レベニュー型」は、企業が既存顧客に自社の商品やサービスの継続的な購入・利用を促すことで、長期的な売上を確保することを目的とした基本的な「型」です。
では、「レベニュー型」がどのように分類されるのか、具体的に見ていきましょう。
多くの小売業やサービス業が採用している基本的な「型」です。単層型は、すべての顧客を同じように扱う、基本的なロイヤルティプログラムです。同じ業態を運営しているグループ会社や、企業単独で1つのロイヤルティプログラムを運用するのが特徴です。例えば、ポイントカードや会員カードを使って、誰でも簡単に参加できるようにしています。
新規顧客と長期顧客を区別せず、すべての顧客に対して同じように対応するため、シンプルで参加しやすい型と言えます。
一方で、この型は特別感が少ないので、顧客ロイヤルティを向上させるという意味では少しほかの型より弱いものになります。
複層型は、顧客をいくつかのグループに分け、それぞれに違う特典を提供するプログラムです。例えば、よく買い物をする顧客には、特別な割引やサービスが用意され、たまにしか買わない顧客には、基本的な特典が提供されます。
基準となる数値は、企業が定めた一定期間の購入金額や回数、累積の購入データなどで、顧客の自社への貢献度を測る指標として使われます。
この型では、お客様に「もっと利用して特典を得よう」という動機を与えやすく、長期的な利用を促進します。
多くの企業がグループや基準を公開し、顧客に上位のグループを目指させる動機づけを行っています。日常的かつ継続的な利用が必要な商品・サービスを扱う企業で、よく採用される型です。
コングロマリット型は、同じグループに属する複数の企業が一緒に運営するロイヤルティプログラムです。たとえば、通信会社と銀行が共同でプログラムを運営し、両方のサービスを利用する顧客に特典を提供します。これにより、顧客のロイヤルティを高め、グループ全体での囲い込みを図るものです。
一つの会社だけでなく、グループ全体でお客様を囲い込むことができるため、広範囲な顧客基盤をつくりやすいです。
アライアンス型は、異なる企業同士が協力して運営するロイヤルティプログラムです。例えば、いくつかの小売店が共通のポイントを使って、顧客に特典を提供します。どのお店でも同じポイントが使えるため、顧客はプログラムに参加しやすくなります。
しかし、この型は単なる共通ポイントプログラムとして捉えられやすく、参加が容易でロイヤルティが低い単層型に近いものです。
また、マーケティング活動の自由度が低く、顧客との関係性構築も難しいため、特定の企業へのロイヤルティを強化するのが難しいことがあります。
ロイヤルティプログラムにはもう一つの「型」である「エモーショナル型」と呼べるものがあります。「レベニュー型」が直接的に売上の継続を目指すのに対し、「エモーショナル型」は、その名の通り、ブランドの歴史や体験、価値観といった感情的な側面を顧客に提供し、共有することで、企業へのロイヤルティを高め、間接的に売上に結びつけることを目的とします。
この「エモーショナル型」の重要性を理解するためには、フィリップ・コトラーのマーケティング理論である「マーケティング3.0」や「4.0」を参考にするのが有効です。
マーケティング3.0では、企業が「価値」を顧客に浸透させることの重要性を強調しています。一方、マーケティング4.0では、顧客が企業を自分の理想像の反映として認識し、企業活動を通じて自己実現を図ることを重視しています。
このように、顧客とのつながりが経済的な関係だけでなく、心理的なつながりへとシフトしている現代では、エモーショナルな要素を重視したロイヤルティプログラムが重要視されるようになっています。
「エモーショナル型」も、さらに2つの「型」に分けられます。
パーパス賛同型は、企業の「目的」や「ビジョン」に共感する顧客に特典を提供するプログラムです。
たとえば、環境保護に力を入れている企業に共感する顧客が、その企業の商品を買うことで特典を受け取ることができます。
この型では、顧客が企業やブランドのビジョンや理念に共感し、それに賛同することが重要な要素です。商品やサービスの性能や価格だけでなく、企業が掲げる社会的なビジョンや貢献が、自分の価値観と一致するかどうかが、企業との信頼関係を築く鍵となります。顧客が企業の価値に共感し、長期的な関係を築きたいと思うためには、企業が明確なパーパス(目的)を持ち、それを適切に伝えることが不可欠です。
この型を採用している企業は、顧客との長期的な関係を構築するために、自社のパーパスをどのように浸透させるかを重要視し、ロイヤルティプログラムを設計・導入しています。
社会価値共創型は、企業と顧客が一緒に社会の問題解決に取り組むプログラムです。例えば、企業が支援している慈善活動に、顧客も参加できる仕組みがあります。顧客が商品を買うことで、その一部が寄付されたり、社会問題解決に役立ったりします。
顧客は、企業が取り組む社会問題の解決に向けた活動に参加し、商品やサービスの購入を通じて支援します。この過程で、企業への信頼感や、自己実現の満足感を得ることで、企業へのロイヤルティが自然と高まっていきます。
ロイヤルティプログラムを導入する際、「レベニュー型とエモーショナル型のどちらが重要か?」という疑問が生じることがよくあります。この問いに対して、正解は両方とも重要だと言えます。
例えば、一般的な消費財におけるロイヤルティプログラムの初期段階では、まず規模の拡大が目標となります。この段階では、売上の拡大や利用促進を図る「レベニュー型」の施策が中心となり、顧客への価値提供が重要です。この時点では「エモーショナル型」の施策があまり必要ない場合も多いでしょう。
しかし、規模が拡大し十分な顧客基盤が確立されると、次に求められるのはその規模の維持と、より価値の高い顧客との関係性の深化です。
ここでは、「レベニュー型」だけでは不十分になり、顧客に自社のブランドや理念に共感してもらい、感情的なつながりを強化する「エモーショナル型」の施策が重要になってきます。
また、ハイブランドの商品やサービスを提供する企業では、ブランドイメージや価値観を強く打ち出す必要があるため、プログラムの開始当初から「エモーショナル型」の施策が不可欠となる場合もあります。
このように、ロイヤルティプログラムは導入当初に選んだ「型」を永続的に使い続けることは少なく、時間の経過や目的の変化に応じて施策を再構成し、新たな「型」を加えたハイブリッド型へと進化させる必要があるのです。
今回のコラムでは、ロイヤルティプログラムの「型」について解説しました。顧客との関係を深め、LTV(顧客生涯価値)を最大化するためには、さまざまな「型」が存在しており、会員組織の成長段階に合わせて「型」そのものやその組み合わせを見直し、進化させることが成功への近道です。
弊社では、CRMコンサルティングサービスの一環として、ロイヤルティプログラムの導入や見直しに関する支援を提供しています。戦略設計からコミュニケーション設計、施策実行に必要なクリエイティブ企画・制作、プラットフォームの導入・開発、そして実際の運用支援まで、あらゆる面でご支援が可能です。
ロイヤルティプログラムの新規導入を検討されている方や、既存プログラムの見直しをお考えの方、または現在のプログラムがうまくいっていない原因を探りたい方など、どのようなご相談でもお気軽に下記フォームからお問い合わせください。