マーケティング戦略に基づいて施策を設計し、その実施の結果として売上アップや収益最大化を実現するためには、施策の効果を1回の実施結果で見るだけでなく、長期的な取り組みとしてその精度を高めていくことが重要です。
今回のコラムでは、ダイレクトメール(DM)を活用したマーケティング施策の改善で成果を上げている事例をご紹介します。
ご紹介する事例は、「優良顧客向けDM施策」の成功事例として、スイーツが人気の「LeTAO(小樽洋菓子舗ルタオ)」というブランドを展開する、株式会社ケイシイシイ様と取り組みです。
顧客の購買行動や心理に添ったアプローチで売上アップを目指すため、まずは顧客データ分析を行い、CRM戦略を見直し、3つのキャンペーンを経て、DM施策を改善。その結果、売上アップに貢献し、10年以上も継続した取り組みです。
はじめに今回の事例概要をご紹介します。
ケイシイシイ様の販売チャネルは店舗と通販があり、通販担当の方から「CRMに課題を感じている」ということでご相談をいただきました。
当時、通販担当チームのミッションは「通販顧客の売上アップ」で、「顧客の購買行動や心理に添ったアプローチができていない」という課題を抱えていました。
そこで当社から、「既存顧客の購買状況の棚卸しとキャンペーンの改善」をご提案し、CRM戦略の見直しに着手することになりました。
最初に行ったのは、「CRMに関する取り組みの現状を把握する基礎分析」です。
フュージョンの顧客基礎分析サービス「CRM ANALYZER」では、大きく分けて下記のような切り口で分析を行い、レポートを作成します。
・売上の構成要素を把握する「売上構造分析」
・自社顧客の状況を把握する「顧客分析」
・顧客の商品購入状況を把握する「購買分析」
・顧客ステージ定義、購買パターン分析、KPI設計とシミュレーションなど
ケイシイシイ様からも、購買データをお預かりし、その購買パターンや顧客の特性などを分析しました。
分析結果に基づいて、当社から顧客のステージごとに3つのキャンペーンをご提案し、実施しました。
1つめは、「初回購入者向け」の「2回目購入につなげるためのサンキューレター施策」。
2つめは、「休眠顧客向け」の「掘り起こしのための施策」。
そして3つめは「優良顧客向け」の「ロイヤルティアップの施策」です。
△「初回購入者向け」の「2回目購入につなげるためのサンキューレター施策」
3つのキャンペーン施策については、以下の事例紹介ページをご覧ください。
この3つのマーケティング施策を実施したところ、最も反応があり、通販全体の売上アップに貢献できたのが「優良顧客向けの施策」でした。
CRM戦略として、「優良顧客向けの施策」が効果的であると考え、この施策をさらに改善していく取り組みが行われました。
効果検証・分析をしながら、下記のように施策は変遷していきました。
この3つの施策では、クリエイティブやコンセプトだけではなく、効果的なDMに必要な要素「ターゲット」「オファー」「タイミング」についても改善を行っています。その変遷も合わせて、詳しくご紹介します。
ケイシイシイ様では以前から通販顧客に定期的に商品カタログをDMで送っていましたが、優良顧客に絞った施策は実施していませんでした。
そこで、「優良顧客に対して、新たな施策を実施すると売上アップにつながるのでは?」という仮説を立て、まずはテストマーケティングを実施しました。
送付対象者は、基礎分析による顧客ステージ分類で「優良顧客」と定義した、年間の購入金額・回数が多いお客様です。
購入回数を増やし年間の購入金額アップを促すため、特典には向こう1年間使えるサービスを提供。
クリエイティブとしては、DMが届いたお客様に「あなたが企業にとって特別な存在である」という想いを伝えるため、優良顧客であることを証明する会員証の位置づけのカードを封入しました。
<実施概要>
目的 | 優良顧客の差別化による、会員の維持、購入回数アップ |
ターゲット | 購入金額・購入回数で、優良顧客と定義したお客様(約1万人) |
クリエイティブ | 優良顧客であることを証明する「LeTAO Smile Pass」を送付 |
オファー | ①自宅・勤務先の送料無料特典 ②バースデーケーキプレゼント |
タイミング | 年1回 |
DMの効果としては、送料無料特典の効果で購入回数がアップという結果となりました。1回あたりの購入単価はダウンしたものの、回数アップが単価ダウンの影響を上回り、全体売上アップしました。
実施前に想定していた仮説が実証され、一定の成果が見られたことから、翌年も優良顧客DMを継続することになりました。
2年目の課題として、「送付対象者の多くは昨年と同様のため、同じ特典・クリエイティブではインパクトが薄いのでは?」ということが挙げられました。
また、ケイシイシイ様が従来から重要としている「ギフト利用の促進」にもつながるよう、オファーの設計を見直すことにしました。
そこで下記の3点をブラッシュアップして実施することになりました。
<2年目の施策でブラッシュアップした点>
①DM送付対象者を拡大
→前年にDMを受け取っていない方を加えることでレスポンスUPを目指す
②クリエイティブコンセプトを見直し
→優良顧客の認定感をより強調することと保管性を高めることを目指す
③ギフト購入でのオファーを追加
→ギフト購入でのオファーを追加→さらなる売上アップを目指す
<実施概要>※赤字がブラッシュアップされた部分
目的 | 優良顧客の差別化による、会員の維持、回数アップ |
ターゲット | 購入金額・回数に基づくセグメンテーション(約4万人) |
クリエイティブ | 「LeTAO Smile Pass」を「LeTAO Smile Passport」に進化させ、「さあ、スイーツの旅へ」のコンセプトで、エアメールを連想させるデザイン |
オファー | ①自宅・勤務先の送料無料特典 ②ギフト送料無料 ③バースデーケーキプレゼント |
タイミング | 年1回 |
結果、1年目の施策に続いて売上アップにつながっただけでなく、パスポートを模した冊子がSNSでも話題に。DMを受け取ったお客様からは、「来年も楽しみにしています」という声も寄せられました。
翌年以降も、DMが響くターゲットや、購買行動につながるオファーを模索しながら、施策をブラッシュアップしていきました。
毎年継続することでお客様にもケイシイシイ様社内にも認知が広がったこともあり、定常施策として年間計画に組み込まれるようになりました。そこでの大きな変化は3つありました。
①DMの成果とする指標の変化
施策開始当初は、DM成果として主に購入金額・回数を追いかけていましたが、施策の定常化に伴い、優良顧客全体の人数の変化や売上インパクトなどを重視するようになりました。
②DMの目的の変化
「優良顧客の差別化・維持」という元々の目的に加えて、「次の優良顧客を育成する」目的でもオファーを変えて実施するようになりました。
③顧客接点の一つとして組み込まれるように
他施策とのバランスを考慮した上で発送タイミングを調整するなど、顧客接点の全体最適化を意識して設計することが必須になりました。
施策開始から9年目を迎えた、2021年の施策は以下の通りです。
<実施概要>※赤字がブラッシュアップされた部分
目的 | 日頃の感謝の気持ちを丁寧に伝え、満足度の向上を図ると共に、LTV最大化を目指す |
ターゲット | 現在の優良顧客に加えて、今後優良に引き上げていきたい顧客を含む |
クリエイティブ | 「さあ、スイーツの旅へ」のコンセプトを継続。 季節商品のご案内DMに同梱 |
オファー | ①自宅・勤務先への送料特典 ②ギフト送料特典 ③バースデーケーキプレゼント セグメントごとにレベルを変えて設定。 |
タイミング | 年4回(数ヶ月ごとに特典利用を促すリマインド、顧客の誕生月に合わせたバースデーDMを追加) |
2021年で9年目のDM実施でしたが、レスポンス率・売上とも過去最高を達成しました。
▼再掲_優良顧客向け施策の全体像 ※オレンジの箇所は、各フェーズで変更した事項
このように、長年、優良顧客施策に向き合ってきたフュージョンですが、他にも多くの優良顧客向けDM施策に携わり、実績がありますのでご紹介します。
通信販売ブランド「ディノス」を運営しているDINOS CORPORATION様では、超優良顧客(ロイヤルカスタマー)向けに、DM施策を実施しました。
ストーリー性が高く、お金で変えない付加価値のあるノベルティを通して、今まで以上にディノスファンとなってもらえるような施策の設計になっています。
結果として、ディノスの会員ステージ最上位クラスである「ダイヤモンド」からランクダウンしていたお客様の8%が「ダイヤモンド」ランクに戻りました。
シューズブランド「アシックスウォーキング」を運営しているアシックスジャパン株式会社様では、ブランド40周年を記念して、これまでの商品開発の歩み、顧客への感謝の気持ちとブランドに込めた「想い」を伝え、顧客とのさらなるエンゲージメント強化を目指した施策として、優良顧客および、新規/継続/育成顧客向けにDM施策を実施しました。
結果として、発送から4カ月あまりで優良顧客の約41.2%が商品を購入。優良顧客以外もこれまでのDMより反応が高く、離反顧客の再購入にもつながりました。
BtoC DM施策についてもっと知りたい方は、下記のコラムで詳しく紹介しているので、ぜひご一読ください。
優良顧客向け施策では、特別感のある体験を贈るようなコミュニケーションや、企業からの感謝を伝えることでより顧客の行動を期待することができます。
また、施策を続けていくうえでは、効果検証をせず同じ施策をそのまま繰り返すと、サプライズ感がなくなり成果は下がってしまいます。
顧客を飽きさせず、サプライズ感があり届いてうれしくなる、心待ちにしてくださるような施策を継続的に設計・実施、効果分析をしながら進化させていくことが大切です。
企業側も、毎年マーケティング戦略を立てる中で方針や予算の変更はよくあることですので、それも踏まえて柔軟に対応していくことが長く成果を出し続ける秘訣です。
フュージョン株式会社では、BtoCビジネスにおける既存顧客維持・育成のためのマーケティング戦略設計や、施策実行をトータルでご支援しています。
「DMの成果を最大化したい」「新たにDMを始めたい」というご相談はもちろん、DM施策のROI改善や、クリエイティブ訴求方法にお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。