CRMに取り組む方々は、オンライン及びオフラインのメディアとコンテンツを組み合わせて、日々顧客とのコミュニケーション施策を実施していることでしょう。異なる特性を持つメディアを適切に組み合わせ、効率的にコミュニケーション施策を実施し、その効果を検証するためには、顧客コミュニケーション設計をしっかり行うことが重要です。
顧客コミュニケーション設計において重要な役割を果たすメディアの選択について、多様な知見を基にして設計する必要性を踏まえ、今回のコラムではメディアの特性、メディア選択を設計プロセスの後半に持ってくる理由、そしてメディア選択の基本原則について解説します。
メディアを深く理解するには、その特性と歴史を知ることが不可欠です。このセクションでは、メディアの特性を歴史の流れと共に解説します。
現代メディアの根底にある特性は、1990年代初頭に提唱された統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)の概念に遡ります。統合型マーケティング・コミュニケーションは、企業が顧客と接する全てのポイントで、データに基づいてセグメント化された顧客に対し、一貫したメッセージを届けるべきだという考え方です。この考えの中で、メディアも顧客との接点の一つとして統合的に考えられるようになりました。メディアは、伝統的なマスメディア(ATL: Above the line )とセールスプロモーション(BTL:Below the line )に区分され、企業のコミュニケーション設計が顧客視点を重視する基礎を築きました。
2000年以降、デジタルメディアの急速な普及により、顧客とのコミュニケーション手段が多様化し、顧客中心のアプローチがさらに重要視されるようになりました。2005年には、オウンドメディア、ペイドメディア、アーンドメディアというメディアと顧客の関係性に基づくトリプルメディアの概念が提唱され、メディアの特性をさらに明確に分類しました。
オウンドメディア (自社) |
ペイドメディア (他社) |
アーンドメディア (ユーザー) |
|
特徴 | 自分で運営できるが、集客は自分で行う | 有料で他の媒体読者にリーチできる | リアルな信頼・評価が伝わりやすい |
コントロール | 自由に可能 | 可能 | できない |
費用 | 安い | 高い | 安い |
施策期間 | 長期 | 限定的 | 長期 |
この分類は、スマートフォンなどのパーソナルデバイスの普及により、顧客がどのメディアをどのシチュエーションで利用しているかを理解する助けとなりました。これにより、企業は顧客の行動に合わせたメッセージや体験を提供するために、デバイスに最適化されたメディアの選択がより重要になり、現在もその必要性は増す一方です。
では、メディアの特性や関係性を踏まえた上で、顧客コミュニケーション設計をどのように行うべきかを考えてみましょう。
顧客コミュニケーション設計の基本は、セグメントされた顧客の行動を理解し、それを促進するためのメッセージや体験を適切なメディアを通じて提供することにあります。単一の行動を促す場合は、一つのメッセージとメディアで対応可能ですが、通常は一連のコミュニケーションを通じて様々なメッセージとメディアを駆使する必要があります。メディアのデジタル化とデバイスのパーソナル化が進む中、このアプローチの重要性は一層高まっています。
顧客コミュニケーション設計における鍵は、「予測(Predictive)」です。つまり、どのようなメッセージや体験を、どのメディアを通じて提供すれば、顧客が望ましい行動を起こすかを予測することが重要になります。ここで大切なのは、企業が顧客にどう動いてほしいかではなく、顧客がどう動きたいかを予測し、その行動パターンに企業が対応することです。
予測に基づいて顧客が次に求めるであろうものを把握し、適切なメディアとデバイスを用いてメッセージや体験を提供できれば、顧客とのコミュニケーションはスムーズに、かつストレスなく進むでしょう。この予測が不十分だと、顧客はフラストレーションを感じ、最悪の場合、ブランドから離れてしまうリスクが生じます。
顧客コミュニケーション設計を行う上で、もう一つ重要な考え方は、使用するメディアを中立的に捉える、メディア・ニュートラルなアプローチを取ることです。従来のキャンペーン戦略では、企業が一斉に同じメッセージを全メディアに大量に配信する手法が一般的でした。しかし、メディアの多様化とパーソナル化が進む現代においては、メディア中心のアプローチではなく、顧客の各段階における課題を解決するために必要なコンテンツや体験、そしてその配信に最適なデバイスとメディアを選択するアプローチが必要です。顧客が必要とするタイミングで、適切なコンテンツや体験に触れることができるよう、顧客視点で最適化されたメディアの選択が重要となります。
この変化を踏まえ、顧客の課題解決や目標達成を支えるアイデア、すなわち「傘」の概念が必要になりました。従来はクリエイティブなアイデアが中心とされていましたが、現在ではタイミング、メディア、デバイス、プラットフォームを跨ぐ適応性を持つアイデアが求められています。アイデアを顧客コミュニケーション設計の前段階で練り上げ、そのアイデアを基にして、どのようなメディアを通じてメッセージや体験を提供するかを検討し、施策を実行することで、成功の可能性を高めることができます。
カスタマージャーニーと顧客コミュニケーション設計は類似しているように見えますが、その役割には大きな違いがあります。建築に例えるならば、カスタマージャーニーは「建築デザイン」に相当し、顧客コミュニケーション設計は「建築設計図」に例えられます。建築設計図は、形状や間取り、構造や設備といった、家の完成イメージを具体的に準備するものです。
同じく、顧客コミュニケーション設計では、顧客とのコミュニケーションの流れ全体を理解し、特定の課題解決や目標達成に向けて、どのメディアやメッセージをどの順序で配置し、結果としてどのような行動を促すかを具体的に設計します。
顧客コミュニケーション設計の特徴は、完成後も手直しが可能である点です。施策実施後は一般的にKPIを通じて成果を測定し、KPI達成に至らなかった場合は、タイミング、メッセージ、メディアのどこに問題があったのかを特定し、対策を講じる必要があります。そして、この対策を反映して顧客コミュニケーション設計を見直し、改善された設計に基づいて施策を再実施することが、このプロセスの繰り返しとなります。フュージョンでは顧客コミュニケーション設計のための解説つきテンプレートをご用意しています。ぜひご活用ください。
顧客コミュニケーション設計において最も重要なのは、自社の顧客の心情を深く理解することです。顧客の視点に立って、最適なタイミング、コンテンツを見極め、適切なデバイスとメディアを通じてコミュニケーションを行うことで、施策の効果は大きく向上します。現在、施策に取り組んでいる担当者の方がメディアについて深く理解し、これを活用すれば、施策の成果を大いに高めることができることは間違いありません。顧客コミュニケーション設計に取り組みたいが、進め方に悩んでいる、うまく進まないといった問題を抱えている担当者様は、フュージョン株式会社へご相談ください。