ロイヤルティプログラムの実施を検討する際、自社にとって価値の高いお客さま、つまりロイヤルティが高いお客さまはどんな方なのか、明確に定義することから始めます。
ロイヤルカスタマーを増やすことは、ロイヤルティプログラムのKPIの一つです。そのため、ロイヤルカスタマーを定義した後はリテンション施策を展開しロイヤルティプログラムを回していくわけですが、実際にそれらの運用を担当されている方々の中には、施策実行後のお客さまの反応や結果が思った通りにならず、ロイヤルカスタマーの定義に違和感を持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ロイヤルカスタマーの定義は定期的に見直しを検討することが重要です。
見直しといっても、単に使用しているKPIや条件の閾値を現状に合わせて変更するだけでは不十分です。ロイヤルカスタマーの定義の見直しはお客さまに対するリテンション戦略そのものの見直しであり、最終的にはビジネスそのものにも影響を与える可能性が高いため、軽々しく考えることは避けるべきです。
そこで、今回のコラムでは以下のポイントについて解説します。
- ロイヤルカスタマーの定義の見直しに伴う課題とタイミング
- ロイヤルカスタマーの定義の見直しのためのアプローチと手法
- ロイヤルカスタマーの定義の見直しにおける影響と注意事項
これらのポイントを通じて、ロイヤルカスタマーの定義の見直しに関する考え方やアプローチについてご紹介します。
ロイヤルティプログラムについての基本的な内容は、別記事「ロイヤルティプログラムとは?他社事例から学ぶ3つの指標と実践方法」で解説しているので、あわせてご覧ください。
ロイヤルカスタマーの定義の見直しに伴う課題とタイミング
ロイヤルカスタマーの定義に違和感を持つタイミングは、業種や業態、商品やサービスの特徴、またプログラムの規模や成長スピードによって異なりますが、一般的にはプログラム開始後の3〜5年目に顕著に現れることが多いです。
なぜこのタイミングなのかというと、ロイヤルティプログラムを運営する上での最大の課題がこの時期に現れ始めるからです。
企業がロイヤルティプログラムを開始する際には、ブランドに対してロイヤルティを持つお客さまの特徴をもとにロイヤルカスタマーの定義を設定します。プログラム開始直後は、そのブランドに対してロイヤルティを持つ既存のお客さまを積極的に勧誘し、プログラムへの参加を促します。
その結果、初期段階ではロイヤルティの高いお客さまが主に参加し、定義に基づいて用意した施策も成果を上げることができるため、ロイヤルカスタマーの定義に違和感を持つことはありません。
しかし、プログラム開始から時間が経過すると、より多くのお客さまにプログラムへの参加を促す必要が生じます。そこで、様々なキャンペーンや特典を実施してロイヤルカスタマーを増やす施策を拡大します。この段階から参加するお客さまは、初期参加者と比較するとロイヤルティが低いことが多く、参加者数が増えたことで見かけ上ロイヤルティを持ったお客さまの割合が減ってしまいます。
その結果、ロイヤルティを持つお客さま向けの施策がうまくいかなくなり、徐々にロイヤルカスタマーの定義に違和感を持つようになります。
また、時間の経過以外にも、ロイヤルカスタマーの定義が通用しなくなる場合があります。それは取り扱う商品・サービスや流通経路の多様化です。通信販売業者の場合、単品の購買行動モデルに合わせてロイヤルカスタマーの定義を検討すれば良いのですが、ビジネスの拡大に伴い新たな商品ラインが導入されると、異なる購買行動モデルが生まれます。そのため、異なる商品ラインにおける購入金額や頻度・回数が異なるため、当初設定したロイヤルカスタマーの定義だけでは十分に適用できなくなります。
どちらの場合においても、ビジネスの拡大に伴ってロイヤルカスタマーの定義が合わなくなることは共通しています。そのため、ロイヤルカスタマーの定義の見直しは喜ばしい課題と捉えるべきです。
ロイヤルカスタマーの定義の見直しのためのアプローチと手法
前提として、ロイヤルティプログラムの企画段階では、自社に合ったロイヤルカスタマーの定義の策定が行われます。ロイヤルカスタマーの定義は、業界や業種、取り扱う商品・サービスの特徴、販売チャネル、お客さまの購買行動などを総合的に考慮して決定されることが一般的です。
ロイヤルカスタマーの定義の策定は、ファクト(事実)をもとに行います。既に商品・サービスを販売している場合は、過去の購入実績や顧客情報を分析することが可能です。
また、新規ビジネスの開始と同時にプログラムを実施する場合は、数年後のビジネス予測をもとに、優良な顧客を育成するためのペルソナやカスタマージャーニーを作成し、仮説を立ててロイヤルカスタマーの定義を行います。
ロイヤルカスタマーの定義の見直しを進める際には、設計時と同様にファクトが重要です。以下に進め方の一例を説明します。
- 【KPI設定】
ビジネスのKGI(重要業績指標)の中で、ロイヤルティプログラムに関連するKGIを特定し、それを構成するKPIを洗い出す。その中からロイヤルティが高いお客さまを識別する上で関連性が高いと考えられるKPIを選定する - 【条件抽出】
自社で持っている顧客購買データからも、ロイヤルティが識別できる項目を抽出する - 【シミュレーション】
抽出した項目で購買分析や顧客分析を行い、ロイヤルティの高いお客さまをグルーピング。シミュレーションを繰り返しながらしきい値を設定し、仮のロイヤルカスタマーの定義を作成する - 【検証】
仮のロイヤルカスタマーの定義を基にお客さまの定量的および定性的データを再度分析し、ロイヤルティを持つお客さまはどのようなペルソナなのか、どのような購買行動をとっているのかを確認する
上記はあくまでも進め方の一例であり、他の分析手法を利用した見直し方法も存在します。見直しを検討する場合には、自社に最適な見直し方法を検討することも重要です。
ロイヤルカスタマーの定義の見直しは、プログラムの効果を最大化し、ビジネスの成果に直結する重要な取り組みです。適切なロイヤルカスタマーの定義を策定することで、より的確なターゲティングや施策の設計が可能となり、顧客のロイヤルティの向上が実現できます。
ロイヤルカスタマーの定義の見直しにおける影響と注意事項
まず、ロイヤルカスタマーの定義を企業内でのみ使用している場合、大きな影響はないと考えられます。ただし、新しいロイヤルカスタマーの定義を基にした基礎分析資料やマーケティング資料の再作成が必要になる場合や、ロイヤルカスタマーの定義を施策に使用している場合は、対応シナリオやクリエイティブの変更が必要になることもありますが、これらの影響は企業内に留まるでしょう。
次に、ロイヤルカスタマーの定義を公開し、ロイヤルティプログラムの施策を行っている場合は、多かれ少なかれ影響を受けることになります。
特に、ロイヤルカスタマーの定義をロイヤルティプログラムに使用している場合に影響が大きく現れるでしょう。ロイヤルカスタマーの定義の見直しによって、特典などの付与しきい値が変更される場合が特に問題となります。
もしロイヤルカスタマーの定義の変更がすべてのプログラム参加者にプラスの影響をもたらす場合は、大きな問題はありません。しかし、一部もしくはすべての参加者にマイナスの影響を与える場合、ただちに施策を変更してしまうと、お客さまがブランドに対する印象を悪化させる可能性があり、最悪の場合はブランドからの離反につながるかもしれません。
このような事態を避けるためには、新しいロイヤルカスタマーの定義に基づいたプログラムの内容変更と、顧客へのお知らせ期間が必要です。
お知らせ期間中は、新旧のロイヤルカスタマーの定義が混在するため、どの施策でどちらのロイヤルカスタマーの定義を使用するかを確認し、実施時期を適切に調整する必要があります。
ロイヤルティプログラムの代表的な施策であるポイントプログラムについては、参考コラムもご参照ください。
リテンション戦略の成果最大化のためにロイヤルカスタマーの定義の見直しを
今回のコラムでは、ロイヤルカスタマーの定義の見直しについて取り上げました。商品・サービスの継続利用を前提にビジネスを展開している企業にとって、ロイヤルティプログラムはリテンション戦略そのものであり、売上拡大や利益向上の基盤です。そして、ロイヤルカスタマーを増やすことは、ロイヤリティプログラムの重要なKPIの一つです。
したがって、ロイヤルカスタマーの定義が実態に合っていない場合、ビジネスの成長が妨げられる可能性があります。
ロイヤルカスタマーの定義は短期間で見直すことが難しいため、見直しの際には思い込みや過去の知見に囚われず、ファクトベースでかつ中立な視点が重要です。
フュージョン株式会社では、30年以上にわたり、さまざまな業界や業種のCRMやロイヤルティプログラムの戦略策定から具体的な施策の企画支援、さらには実際の運用までワンストップでサポートしてきました。今回のコラムで解説したロイヤルカスタマーの定義の見直しについても、顧客データ分析や顧客戦略策定支援サービスを活用することで、適切な対応が可能です。
ロイヤルカスタマーの定義や顧客定義に疑問を感じている方や、顧客定義はあるが施策との連携がうまくいっていないと感じている方、ターゲットに響かない施策を実施していると感じている方など、お悩みのある担当者の方は、お気軽にお問い合わせください。