ダイレクトマーケティングの代表的な手法のひとつであるDMは、コロナ禍においても企業にとって強力なプロモーションメディアであり、環境変化に強いメディアであることは、別コラム「「日本の広告費」から見るダイレクトメール(DM)費用推移と、正確に理解するための注意点を解説」で解説しました。
ダイレクトメール(以下、DM)の実態をより詳しく知るためには、一般社団法人日本ダイレクトメール協会が2012年から毎年実施している「DMメディア実態調査」が参考になります。
今回のコラムでは、この「DMメディア実態調査」の情報をもとに、消費者側である受け取り手視点でのDMに対する態度の変化を解説します。なお、DMを送付する企業側視点での変化については、「コロナ禍前後でのダイレクトメール(DM)動向は?DMメディア実態調査を基に解説」で詳しく説明していますので、ご興味のある方はあわせてご覧ください。
DMの受取通数の変化
はじめに、DMの受取通数に着目した変化を見てみます。
先にご紹介した別記事「コロナ禍前後でのダイレクトメール(DM)動向は?DMメディア実態調査を基に解説」では、受取通数が2019年は6.7通、2020年には7.0通、2021年には5.5通と2020年には増加したものの2021年には減少に転じたことをご紹介しました。
ところが、本人宛DM受取者数と本人宛DM受取通数を深掘りすると、少し異なった結果が見えてきます。DMの対象を本人宛に限定することで、無記名のDMや折込チラシを取り除くことができるため、よりDMの実態に近づけることができます。
本人宛DM受取者数について、2019年は計183人でしたが2020年には計171人に減少、2021年は計179人に増加しています(※調査の母数はいずれも200人)。一方で、本人宛DM受取数は2019年の計1,233通に対し、2020年は計1,937通と1.5倍近く増加、2021年は計1,282通とコロナ前の水準に戻っていて、2020年12月は本人宛DMが突出して増えていたことになります。
これは、コロナ禍で通販やECに巣ごもり特需が起こったことにも関連しているでしょう。
受け取り手の開封・閲読後の行動変化
次に受け取り手の開封・閲読後の行動について触れてみます。
DMの閲読状況を見ると「開封・閲読せず」の割合が2020年は受取通数の1/3強の36.9%で、2019年の26.0%、2021年の20.3%に比べ10%以上も高くなっています。これを通数ベースでみると、2020年は受取通数が多いため、例年の2-3倍の700通以上のDMが開封・閲読されていないことになります。一方で、「開封・閲読後に行動した」というDMは「行動しなかった」、「開封・閲読しなかった」と比べるとそれほど大きな変化は見られません。
このことから、受け取り手はDMを受け取った瞬間に情報の取捨選択を行い、この情報が自分にとって必要か不要かを判断しているということがうかがえます。2020年は例年の1.5倍近いDMが届いたわけですから、判断基準が厳しくなったのかもしれません。瞬時に受け取り手に「このDMは必要だ」と判断してもらうためには、やはり最初の入り口でしっかり情報を提示する必要があります。
ここでいう情報とは、DMのセオリーである「誰から届いたのか」「なぜ今届いたのか」ということであり、これらをしっかりと踏まえたクリエィティブを企画・設計することが重要です。
DM受取時の行動の内訳
次に、DMを受け取ったときの行動の内訳についても確認してみましょう。
DM受取時の行動の内訳(単位:通、小数点以下四捨五入) | |||||
開封・閲読 | その後の行動 | 行動内容 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
開封・閲覧 | 行動した | ネットで調べた | 95 | 130 | 103 |
家族・友人との話題にした | 51 | 76 | 37 | ||
店に出かけた | 25 | 27 | 23 | ||
購入・利用した | 18 | 41 | 44 | ||
資料請求した | 6 | 25 | 36 | ||
問合せた | 17 | 21 | 9 | ||
ネット上の掲示板等に書き込んだ | 2 | 8 | 4 | ||
会員登録した | 5 | 6 | 22 | ||
その他 | 6 | 10 | 5 | ||
特に何もしていない | 711 | 930 | 750 | ||
開封・閲覧せず | 321 | 715 | 260 |
(一般社団法人日本ダイレクトメール協会「DMメディア実態調査」資料よりフュージョン株式会社作成)
行動の内訳を見てみると、意外にもDMを「家族・友人との話題にした」という回答が、2020年は2019年に比べて1.5倍の通数に増加しました。リモートワークやオンライン授業等で在宅の時間が長く、そのため自分に届いたDMをじっくり見る時間が持てたのではないでしょうか。自分に興味のあったDMを家族や友人との話題の一つとして取り上げた可能性があります。
一方で、「店舗に出かけた」については、2020年の通数増加による変化をあまり受けておらず、2019年や2021年と比べてもそれほど大きな増減は見られませんでした。
この調査の時期は、年末年始の各種店舗の送客イベント開催の案内や飲食店の忘年会や新年会の案内が比較的多い時期ですので、本来は受取通数が増加すればこれらのDMも増加するはずです。ただコロナ禍においては、受け取り手が行動制限や周囲の目を気にして、この手のDMを受け取っても「行動しなかった」か、そもそも「開封・閲読しなかった」のかもしれません。
受け取り手が求めている情報と送付される情報のギャップ
もう一つ見逃せないのが、送付人と受け取り手の間に存在する情報内容に対するミスマッチです。2020年のDMメディア実態調査では、本人宛DMで希望する情報内容としては「クーポンの案内・プレゼント」が53.5%、「特売・セール・キャンペーンの案内」が46.0%、「試供品の案内・プレゼント」が44.0%など、受け取り手がメリットを感じられる内容がトップ3を占めています。
一方で、受け取り手が実際に手にしたDMの情報内容としては、「新商品・サービスの案内」「商品・サービスの紹介記事、読み物」の割合が高く、受け取り手が期待する「クーポンの案内・プレゼント」「特売・セール・キャンペーンの案内」等の割合は低く、これらの情報内容は送客を伴いやすいためコロナ禍の影響を受け減少したと思われます。
前段で「開封・閲読せず」の割合が2020年は高く、これは通数が増えたことが一因と記載しましたが、これに加えて受け取り手が望んでいない情報が多く送られてきたため、このような行動につながったともいえるのではないでしょうか。
なお、新商品・サービスの案内や紹介に関する情報の増加については、送付元の2割近くを通信販売メーカーが占めており、コロナ禍において売上を確保するために既存客や休眠客に商品やサービスの切り口を変えたアプローチを積極的に行ったと推察できます。
しかし、DMのセオリーである「なぜこの情報を私に送ったのか?」という疑問が払しょくできなければ、残念ながら効果を上げることは難しいことは、この結果で一目瞭然です。
受け取り手を知ることが効果的なDM企画・制作への第一歩
今回は、一般社団法人日本ダイレクトメール協会の「DMメディア実態調査」を基にコロナ禍前後におけるDMの変化について考察してみました。
DMメディア実態調査はDMに関しての唯一の定点調査で、DMを受け取る側から見たDMを把握している調査です。
コロナ禍という特殊事情下での調査ですが、読み解くことで企業側の行動の変化だけではなく、受け取り手の行動の変化や感情の変化を把握することができます。DMは、ひとりひとりにダイレクトに届くメディアがゆえに、社会環境の変化に大きな影響を受ける媒体であると言えます。そのため、効果的なDMを企画・制作するためには、受け取り手を知ることが第一歩です。このような調査から得た知見をDM施策のための企画・制作に反映させることによって、より最適な結果を得ることができます。
以下の記事では、近年のダイレクトメールに関する市場動向やトレンドを詳しく解説しているので、ご興味のある方はあわせてご覧ください。
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