顧客分析は、自社の業績をアップさせるために必要な取り組みです。しかし、具体的にどのように分析に取り組めばよいかと問われると、戸惑ってしまう方がいるのも事実ではないでしょうか。
このコラムでは、手軽に使えるExcelを活用し、顧客分析の基本をわかりやすく解説します。代表的な手法であるデシル分析とRFM分析を取り上げ、Excelを用いた身近で実践的なアプローチを紹介します。
顧客分析は、顧客の行動と傾向を分析し、より効果的なマーケティング戦略を形成するプロセスです。デシル分析では、顧客を収益性に応じて10のグループに分け、各グループの特徴を把握します。RFM分析は、顧客の最終購入日、購入頻度、購入金額を基に評価し、重要な顧客を特定します。これらの方法を使うことで、企業は顧客データを活用し、効果的なマーケティング戦略を立てることができます。
顧客分析ツールには、BIツール、CRMシステム、SFAツール、MAツール、データマイニングツールなどなど、多種多様なものがあります。これらのツールは、それぞれ独自の用途と特徴を持ち、詳細な顧客データの分析と活用が可能です。
ただ、顧客分析を始めるにあたっては、Excelのような身近で基本的なツールから手を付けることも有効です。Excelは、データの整理や基本的な分析、グラフ作成など、顧客分析の最初の一歩には充分なツールと言えます。
Excelで顧客分析を始めるために、まずは売上明細など分析に使うための元データを準備しましょう。今回は、2020年1月1日~12月31日の一年間に購入履歴のある顧客を対象とし、2021年1月15日に分析を行う設定にします。
※ RFM分析を行う場合の注意点
注文番号が重複している際は注意が必要です。例えば、一回の注文で複数商品を購入している場合など、注文番号が重複しているケースがあります。
データの中に注文番号が重複している場合は、前処理として以下のように注文番号単位で注文日・顧客ID・注文金額をまとめたデータを準備しましょう。
元データが準備できたら、さっそく Excelで分析してみましょう。
デシル分析は、顧客を購入金額の多い順に10のグループに分け、各グループの購入傾向を分析する方法です。この分析を通じて、売上に大きく貢献する顧客グループを特定でき、販促活動の効果を高めることに役立ちます。また、売上構造の分析を通して、自社の課題を発見することも可能です。
それでは、Excelでデシル分析を行う際の手順を見てみましょう。
おおまかな流れは以下の4ステップです。
ピボットテーブルを使用して顧客ごとの累計購入金額を求めましょう。
ランク分けを行うために累計購入金額が大きい順に並び替えましょう。
ランクを割り当てる前にリストを10等分しましょう。
次に、デシルランクを割り当てましょう。
今回のサンプルでは、リストに含まれる顧客数は1,610名でしたので、10で割って161人ずつデシルランクを割り当てます。
顧客数が10で割り切れない場合には、一番下のランクに余りをすべて含めてしまうのが一般的です。下位の方が購入金額が小さく、影響が少ないためです。
デシルランクの割り当てには、関数を利用します。
IF関数を利用して、順位と分割幅からデシルランクを割り振っていきましょう。
※「分割幅」の数字ずつD1~D9まで入力され、残りはD10が入力される関数を書いています
デシルランクごとに購入金額を合計し、売上全体に占める割合(累積構成比)を算出しましょう。
この例ではSUMIF関数を利用して割合を算出しています。
今回のサンプルでは、デシルランク1~3の上位30%の顧客が、売上の約80%を占めていることが分かります。
デシル分析の活用例を2つ紹介します。
RFM分析とは、特定の期間における
・R(Recency)=最終購入日からの経過日数
・F(Frequency)=購入頻度
・M(Monetary)=累積購入金額
の切り口で顧客を分類する分析手法のことです。
デシル分析では購入金額のみで顧客を分類しましたが、2つの切り口を追加することで、顧客を多面的に分類し、より細やかな施策を検討できるようになります。
それでは、ExcelでRFM分析を行う具体的な手順を見てみましょう。
おおまかな流れは以下の3ステップです。
RFMランクを定義する際は、データの分布を見ながら、項目ごとに3つまたは5つのランクに分割するのが一般的です。今回の例では、以下の条件で5つのランクに分けることにしました。
※各定義は数値で入力し、セルの書式設定から「○日以内」などの見た目上の表示を追加すると、次項以降の計算がしやすくなります。
下記の方法で見た目上の表示を追加することができます。
この設定により、セル内の数値に「" "」でくくった文字列が追加されます。
(各定義は、厳密には「○以上△以下」となりますが、計算で利用するため表のように記述しています)
ここまで作成できれば、直近の購入の有無や、どのくらいの頻度で購入してくれているのかなどが分かります。
さらに全体の傾向を見るために、R(最終購入日からの経過日数)とF(購入頻度)でクロス集計してみましょう。
RとFを掛け合わせることで、以下のように顧客を分類することができます。
例えば、新規顧客の場合、リピーター、常連へと顧客を育成し定着させることが望ましい姿です(図の青の矢印)。
一方で、常連が何らかの理由で離反してしまうことは避けたい事態です(図の赤の矢印)。
顧客がどのランクに属しているか分かれば、それぞれに適した施策を検討することができます。また、分類ごとの顧客の割合が分かれば、自社の課題も発見しやすくなります。
※施策の具体例は「売上を上げる6つの方法とマーケティング課題の設定・解決策検討プロセス」もご参照ください。
RFM分析は、業界や商材に関わらず基本的な購買データのみを用いて、定量的なデータを計測できる利点がありますが、一方で注意点もあります。
例えば、毎年4月にRFM分析を行っているとします。この場合、お中元の時期(8月)に毎年購入してくれる顧客の「Recency」は240日となり、「優良顧客」として認識することはできないでしょう。
しかし、このような顧客に離反されてしまうと、お得意様を失うだけでなく、その商品を受け取った人が新規顧客になる機会も失ってしまいます。
このような顧客を失わないためには、RFM分析を定期的かつ継続的に実施し、顧客ごとに状況を把握することが必要です。定期的に行うことで、ある程度長いスパンでリピートしている顧客を見つけられるでしょう。
例えば、1千円の定番商品を毎月購入している顧客と、1万円の限定商品を一度だけ購入した顧客の最終購入が同日だったとします。その場合、R(最終購入日からの経過日数)とM(累積購入金額)の指標で見ると同一のセグメントに属することになるでしょう。
しかし、F(購入頻度)とM(累積購入金額)の組み合わせで見ると、累積購入金額が同じでも繰り返し購入してくれている顧客と、一度だけ高額購入した顧客であることがわかります。このふたりの属性が異なることは明らかで、それぞれに実施すべき施策も当然異なってくるでしょう。
また、RFM分析を他の分析と併用することも有効です。
例えば、おもちゃ屋での購入が途絶えた顧客の購入履歴を分析し、主にベビー用品を購入していたとわかれば、子どもの成長に伴うニーズの変化が起こったと推測できます。それにあわせて適切な年齢層の商品を訴求すれば、「離反客」が再度店舗を訪れる可能性を高められるでしょう。
CRM分析に関する基本的な考え方や使える分析手法については、下記の記事で紹介しています。ぜひご一読ください。
デシル分析・RFM分析では、顧客のデモグラフィック属性(年齢や性別、年収、学歴など、個人の社会的な属性)や、具体的な購入品の情報は取り扱いません。そのため、特別なシステムを使用しなくても Excelで簡単に集計できるという特長があります。
顧客分析の第一歩としてはもちろん、継続して行うことにも適しています。定期的に分析することで、優良客が離反していないか、新規客がリピーターになっているかといった変化を見ることができます。
そして、効率的なデータ分析を行うには仮説が欠かせません。デシル分析・RFM分析から得られた気づきを仮説構築のベースとすることで、より高度な分析を行っていくことにつながります。
フュージョン株式会社では、顧客基礎分析レポートサービス「CRM ANALYZER」を提供しています。企業の顧客購買データから、売上分析・顧客分析・商品分析の3つの軸で基礎分析を行います。データの集計にとどまらず、どのようにランクを切り分けるか、分析結果をどのように解釈するか、さらに具体的な施策に反映していくかを網羅しています。マーケティングの戦略策定から施策実行までの各フェーズで幅広く活用できる内容になっています。ご興味のある方は、ぜひサービス資料をご覧ください。
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